エミルの正体
「しかし疑問が一つ。これだけ自慢げに神位を口にするのに、その噂がないのはなぜ?」
それは俺も思うところがある。デブエルフ候補のくせにやたら鋭いな。
「というか魔法師がソロの時点で怪しさ満点じゃのう」
髭親父の指摘も、俺の疑問点の1つだ。
魔法師が実力を発揮するには前衛の援護が必須だ。
「当然。ボクが『賢者』だと知ったのは今日の朝だから」
「神位って突然目覚めるものなの?」
「んなわけねーだろ。神位は生まれる前に与えられる馬鹿げた才能なんだよ!」
俺は『英雄』になるためにこの世に生まれた。
エミルは『賢者』になるためこの世に生まれた。
神位に憧れだったり羨みだったり、ないしは負の感情を抱く奴は多々いるだろう。
しかしだ。この世に生まれた瞬間に「お前は英雄になるために産まれた」みたいな事を面識もねえ神様とやらに与えられた才能がどれだけ辛いかは本人にしかわからないだろう。
生き方ぐらい自分で決めるわボケ神様。
偶然ににもバトルマニアの俺が『英雄』だったのはギリギリで受け入れることが出来た。
とはいえエミルは……、いや自慢げな当たり俺と同じか。
いやその重みをまだ知らない可能性が高い。
「今日の朝一で冒険者登録をして、ギルドカードに『神位:賢者』記載があると知った」
「つまり、えっ? ちょい前まで冒険者ですらなかったの?」
「故あって自分で衣食住を用意する必要があった。『賢者』はその点でいえばボクにとって好都合」
「お前、歳誤魔化してねーだろうな?」
普通二十二歳で冒険者になろうなんて思わない。
興味あるなら早いうちに登録だけでもしているはずだ。
「故あってと言った。改めて自己紹介。ボクの名前はエミル・キリエ・エアライト」
「こ、公爵の娘!?」
「まさかっ!? いったい何故なんじゃ!?」
二人とも驚いているが、フルネーム聞いてもいまいちわからん。
「説明担当のデブエルフ候補。詳しく」
「せめてぽっちゃりエルフに戻してほしいんだけど……」
ナタリアは説明してくれた。
エアライト家はサザー街やナナシー村を含むここらいったいを統治する領主だそうだ。
しかも地位としては公爵という、王家の1つ下に位置するかなり偉い貴族だそうだ。
「ボクはエアライト家の次女。父親に見合い相手と強制結婚させられそうになって逃げてきた」
曰く、二十二歳にもなって結婚どころか婚約相手もいないとなると家柄的にまずいそうで。
「ボクは美人で天才。外見も中身も完璧でない相手と結婚なんてごめん」
「そんな事言ってるから家に強制結婚させられるだろ」
二十二歳で未婚はまあ普通かもしれんが、未婚の理由が完全に結婚できない女の発想だ。
「あと言っておく。美人ってのはナタリアみたいなのを言うんだよ! 今は体がデブってるけどな!? こういう凛々しいのが顔つきが美人ってんだよ!!」
「えっ、わ、私が美人!? ナユタから見ても!!?」
「てめえみたいなガキのような幼い顔立ちは美少女ってんだ。その勘違い直せ!!」
「……。うん、わかった」
あれ、意外と素直だな。あと顔赤いんだけど。
あとデブエルフ、お前もなんて照れてるんだ。
「ナユタ、時々そういうところあるんじゃよなあ。直したほうがいいぞ?」
エンブリオに肩を叩かれ、呆れ顔で注意された。
あれ? またなんか俺やらかした?
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