英雄のパーティ

 朝食後、宿の俺らの部屋に集まりエミルの説明をざっくりとエンブリオとナタリアにした。


「……『英雄』がいるから『賢者』がいてもおかしくないわよね?」


「おかしいわデブエルフ。口にするのは戯言じゃなくて飯だけにしとけ!!」


 デブエルフ候補のナタリアはダイエットしてるのに酷い!なんて涙してるが、そんなの気にしてる余裕は無い。


「エンブリオ、神位が同じ時代に2名以上いた実績は!?」


「あるわけなかろう!! あるいは神位を隠し通していた可能性はゼロではないが」


 しかし実績を鑑みるに神位持ちの化け物が2人居たとは考えられないとの事。

 いや俺だって、俺が神位持ちだから色々調べたさ。

 ありえねーんだよ。勇者が何十人もいるぐらい、ありえねーんだ。


「魔王はいるわ、戦争吹っかけてくるわ、勇者は脳無しで役立たずのバカで、このデブエルフはダイエットしてるとか言うけど飯の量はむしろ増えてるし、髭親父のドワーフはいい歳して独身だしどうなってんだよこの世界!!」


 あまりにも異常事態に不満をぶつけた。

 後半はほぼ八つ当たりだった。


「悪い。後半は全面的に俺が悪い」


「気にするでない。それだけ『神位』の存在は強いしのう」


「ありがとう。んで本題。俺はエミルを仲間に入れるつもりだ」


「当然。ボクは優秀な『賢者』だから」


「てめえ次に『賢者』の単語言ったら本気で殴るからな」


「問題ない。ボクの『賢者』のスペルでどんなダメージも完治できる」


「安心したよ」


 俺はエミルの脳天を本気で拳骨した。

 付与師のスキルで『威力アップ』と『継続ダメージ付与』と一応『回復力軽減』を加えておいた。

 まあ魔法師が回復スペルなんて使えるわけないから関係ないとは思うが『賢者』相手なので念のため。


「あ、あれ? ボクの回復スペルが効かない? 痛い、痛いよう……」


「次、神位を言葉にしたらもっとデバフ付与して殴るからな」


「『英雄』実は鬼畜」


「だから神位を言うな!」


 先の拳骨に加え、付与師のスキル『状態異常:沈黙』を付与して殴った。

継続ダメージでもだえるエミルをよそに話を進めた。


「自称二十二歳の能無し魔法師だが、ほんっと残念な事に『賢者』の神位持ちなんで、保護する」


「女相手に容赦ないのう」


「自慢だがナタリア相手でも平気で殴れるぞ、俺は」


「ひっ、やめろ。私はそんな口軽くないし頭も軽くない」


「そして体重は重いもんなあ」


「殺すぞ。あ、いえすいません、私は全部重いです」


「てことで、表向き将来有望な魔法師を仲間にした。実はクソアホな『賢者』の保護。異論は?」


「そもそも勇者パーティから抜けてから、わしらパーティー組んでおらんし、好きにすればよい」


 あ、そういうやそうだった。

 勇者パーティー抜ける際は「実質リーダー」とされたけど、正式にパーティは組んでいない。

 クソみたいな勇者のお守りの抜けた際の、俺を含め3人の余生の過ごし場所を委ねられたに過ぎない。


 なんだ、まあ神位のヤバさ知ってる二人にはどっち道教えておかないと、今後のフォローのお願いできないし結果オーライで。


「意義あり! 意義あり!!」


「なんだデブエルフ候補」


「確かに私たちはパーティを組んではいない。しかしだ、それが世間にバレてごらん?」


「……」


 エンブリオが苦虫を噛んだ顔をする。



「フリでいいのよ。要はこの小娘、あれ? 二十二歳って言った? 私より年上? まあいいか。うかつに『賢者』の自分をアピールするのが問題なのでしょ? それを阻止するのと、引退気味の冒険者というスタンスの両立は成立すると思うのだけれど。むしろ最善手だと私は思うわ」


「じゃが……」


「剣士ナタリアは、改めて『マルチウェポン』のナユタのパーティに参加すると宣言するわ。元とはいえ勇者パーティの一員で英雄の一人と呼ばれている私だもの。既に勇者パーティから抜けソロ状態だけど今までパーティー勧誘がなかったのは引退扱いされていただけと思う。けど昨日のギルドカード更新で現役なのが広まるのも時間の問題。ソロのままではパーティー勧誘を受け続けることは目に見えているので、打算的だけれどナユタのパーティメンバーとなっておく。正真正銘の『英雄』がリーダーなら引き抜こうなんて無謀な事する冒険者はいないでしょう。ところでエンブリオ。執拗なパーティ勧誘を延々と受け続ける人生は好き?」


「…………」


「ナユタのパーティなら隠れ蓑として最高では? それともナユタのパーティ以外に行くあてはあるの? 失礼、ナユタ以上の冒険者にに心当たりでも? それとも自身でパーティでも作るの? もっとも、加入者が殺到すると思うけど?」


「はあ、わしはゆっくり余生を送りたかったのにのう」


 毎日欠かさずトレーニングしてるくせになに言ってんだか。


「戦士、『鉄壁』のエンブリオ。改めて『マルチウェポン』のナユタのパーティメンバーになるぞ」


「というわけだ。パーティミッション『エミルの自慢癖を直せ』。受注する人材は揃ったわよ?」


「はいはい、これも懐かしいねえ。パーティ………名前は後で考えよ」


「シンプルに<英雄>でいいのでは?」


「悪くねえ。改めてパーティ<英雄>はこの頭足りてない22歳児に神位の危険性を叩き込むパーティミッションに挑む!」


 方針が決まった所で継続ダメージで戦闘不能になりかけてるエミルにポーションを頭にぶっかけておいた。

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