新しい仲間?
俺らはあのまま宿で一泊し、朝日が昇る頃に目が覚め軽く街をランニングしていた。
「だからあいつはぽっちゃりエルフなんだよなあ」
勇者パーティにいた頃は、俺の日課としている早朝トレーニングの前にはナタリアは剣の修行をしていた。
今のナタリアはその日課がなくなり、本当に脱冒険者お婆ちゃん生活しているのだろう。
当然自堕落な生活をしている自覚はあるので、早起きをして軽い運動を続けている。
エンブリオも同じだったらしく、同じ時間に目が覚め、お互いランニングの準備を終えると、指差して笑いあった。
なんだ、てめえも鍛えるの続けてるのかよってな。
確かに勇者のパーティは意図的にクビになるよう動いた。
懐も暖かい。よっぽどの事が無い限り、この財産は尽きない。
けどな、残念なことに実は俺、スリルある戦いに身を投じるのも趣味の1つなんだよ。
それはエンブリオも近しい考えがあるのだろう。
二言目には楽してえって言うけれど、こうやってトレーニングをしてるのが証拠だ。
クラスの恩恵は気まぐれ、スキルの効果は他人のモノマネだ。
これを教えてくれたのは他でもない、エンブリオだ。
戦士の恩恵以外の、自身の実力を高める為に日々努力してるんだとさ。
お互い朝の日課を終え、交互にシャワーを浴びさっぱりした頃に丁度朝食の時間になっていた。
ナタリアは無視。昨日の疲労が溜まってるなら寝かせておいたほうがいい。
今日も昨日と同じ速度で馬車を走らせるからだ。いや子供たちがいないし更に倍でもいいか。
「いただきます!!!」
俺の配慮を無視し、ぽっちゃりエルフは目覚めて即朝食、しかも俺らの3倍の量を幸せそうに貪っていた。
「昨日夜食も我慢し、ダイエットのために筋トレもした! だからか、ご飯が美味しい!!!」
あ、だめだこいつ、その発想はぽっちゃりどころかデブの発想だ。
いやナタリアの幸せそうな食事を見るに、あえて指摘はしない。
さよならスレンダーエルフ。デブエルフでも見捨てないよ。
なんてバカらしい考えをしている傍ら、明らかに俺らに何かしらの視線を与えてる存在がいた。
敵意、殺意、害意。いずれも該当しないのでエンブリオですら気づかないその視線。
「ナタリアのお守り頼むぞ」
「……、はあ、厄介事ばかりもちこんで。一応言っておく。気をつけよ」
エンブリオの忠告に手のひらをひらひらと振るい、問題ないとアピールした。
「で、お嬢さん、何の用?」
謎の視線を送っていた元を辿ると、それは銀髪の小柄な少女が放ったものだった。
同じ食堂の片隅でパンとスープをゆっくりと口に運んでいた。
俺はこいつの対面の席が空いてたので座り、軽く睨んだ。
「ボクはエミル。魔法師だ。ぜひ『英雄』のパーティに入れて欲しい」
「俺らの動向が気になって強めの視線を向けてきたってか。俺らなら兎も角、他の中途半端に強いパーティだったら殺意向けられたと勘違いされて殺されてるぞ」
「問題ない。ナユタは『英雄』だから、そこらの粗暴な連中と違って冷静で紳士的」
「いや俺結構荒いし、バカとか言われてるし、粗暴通りこして暴力的なんだけど」
「嘘。でなけれ闇奴隷商を裁かない」
「自慢に聞こえるかもしれんが、俺ら英雄って言われてるんだよ。お前みたいなガキは――」
相手にしないと言おうとしたがエミルに遮られた。
「否定。ボクはガキではない。二十二歳を迎える淑女」
マジかよ。見た目年下だぞ。銀髪のロングヘアは確かに綺麗だしちゃんと顔見るとナタリア並に、いやあどけなさを感じるあたり美少女ってのか。加えて燃えるような赤い瞳が特徴的。
しかし残念なことに150cmあるかないかの身長とあってないような胸の膨らみが幼さを際立たせている。
「ちなみに父以外に男性と触れたこともない処女」
「その情報全然いらねーけど」
「ともかくボクを受け入れると得。特に『鑑定眼』と『神位:賢者』をもつボクは優良物件。もちろん妻としても」
「ちょっとお前黙って貰える?」
『鑑定眼』はあらゆる事象を鑑定できる魔眼の一種だ。
先の謎の視線はこれか。俺らのギルドカード、いやクラスや会得スキルを覗いてたんだな。
俺を『英雄』と言ったのは世間一般的な「英雄」ではなく神位としての『英雄』を指しているのか。
だがそんな事より彼女の神位『賢者』は色々とやばい。俺の『英雄』よりやばい。
魔法関連のスペルは個人の努力次第ですべて可能にするまさにチートの根源だ。
嘘なら良い。
しかし本当に『賢者』で、俺ら以外のパーティにいいように扱われたら世界終わるぞ?
最悪あのバカ勇者がこの子をパーティに加えたら世界が終わった後にさらなる地獄を迎えるわ!!
俺が俺つえーしてた時期ですら神位を伏せてたのに、こいつは平然と神位を明かしやがった。
危ういのも程がある。
「えーはい、一応俺もパーティー? にいるので君が加わっていいか皆に聞こうと思うんだけど」
「必要ない。『英雄』が私を拒むなら他のパーティに行くだけ。私の『鑑識眼』と『賢者』はそれだけ優秀」
「ああ、もうくっそ! わかったから、俺らの所に来い。なお俺らの拠点はナナシー村っていう寂れた村だからな!? 気に入らなければこの街に住んでてもいいからな? クエストの際は呼んでやるから」
いやそもそも普段から冒険者として活動してなしクエストも受ける気ないからこの提案はどうなのかとは思うが、この能天気『賢者』をこのまま世に放置できねえ。
「問題ない。知っている、ナユタの家が豪邸で五部屋あるのも。『鑑定眼』で確認した」
「俺の家に住む気満々かよ!!」
エンブリオとナタリアに一切説明する間も与えられずエミルは俺のパーティーメンバーとなった。
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