エルフが勇者パーティに入った理由

 ナタリアはエルフだ。


 今ではぽっちゃりエルフなんて陰口を、主にナユタに言われているが昔の体躯は細身で他のエルフより身長が高く、そして器用で万能な存在だった。


 元々弓を得意とする種族ゆえ、幼い頃には世界の誰にも負けないぐらいの弓の実力を持っていた。

 けれど気にいらなかった。

 エルフだから弓が得意だとされるのがだ。

 これはナタリアの才能で、ナタリアの努力の結果だ。

 しかしエルフだから凄い、なんて言われても喜びどころか悔しさしかない。


 剣に出会ったのは偶然。

 ナタリアの生まれ育ったエルフ領に行商人が名剣を持ってきたのだ。

 その剣の輝きに心を奪われた。

 その時ナタリアは決めたのだ。

 立派な剣士になると。


 しかし非力な幼いエルフには剣を扱うのに限界はある。

 だからこそ、軽いショートソード、レイピアで腕を磨き剣士として恥じぬよう努力を続けた。


 両親には反対されたが十五歳で家を出て冒険者として自立する。

 もちろんクラスは剣士。

 しかし女一人で冒険者として生活するのは中々厳しいものがあった。


 エルフという美形の種族、さらにその中でもナタリアは飛びぬけて美しかった。

 冒険者の腕ではなく、その美貌を目的にパーティに誘われる事が多々あった。

 例えその剣の実力を評価するパーティに所属しても、結局は男はその美貌に惚れてしまい、女は嫉妬する。

 ナタリアの所為で崩壊したパーティも少なからずある。


 なら、一人でいい。


 噂に聞けば英雄なんて呼ばれているナタリアよりも年下の冒険者がいるらしい。

 その英雄はソロで高難易度クエストをこなしているという。


 ナタリアは英雄になりたいわけではなかったが、その生き方に敬意すら覚える。

 それときっとその英雄は自分のようにパーティを組んで嫌な思いをしているんだろうな、と勝手な親近感もあった。

 実際はその英雄はナユタで、適当に暴れまわっていただけなのだから居た堪れない。


 ともかく、ソロの冒険者とし活動し、その腕を磨き続けた。

 その努力は勇者パーティに誘われるということで報われた。


「私はいずれ世界を救うエルフの剣士なのだ」と誇らしく思っていた。


 前線でも活躍し、剣姫の称号も夢ではないというところで、例の2人が勇者パーティに加入した。


 ドワーフの戦士、『鉄壁』のエンブリオ。

 小柄ながら耐久に優れ、自己回復を併せ持つ攻撃スキルと挑発スキルで大軍を一人で圧し留める。


 それを『マルチウェポン』のナユタが一掃する。

 ナタリアはナユタが何のスキルを、いやそもそも何をしたのかわからなかった。


 悔しさと尊敬と憧れを彼らに抱いていた。

 しかし蓋を開けてみれば、二人して適当な理由で勇者パーティの頂点として戦っていたのだ。


(はあ、ほんとバカみたい。)


 ナユタがクビ宣告を受けた時、ナタリアはもはや絶望しかなった。

 勇者はナユタがいなければ自身がこの世から消えていることに気づいていないのか。

 しかも続くようにエンブリオまで脱退の意思を告げる。

 残るは戦い慣れていない勇者とろくに攻撃しない魔法師とポーション以下の回復スペルしかできないポンコツ回復師、あと勇者が勝手に「二軍」と称してる得体の知れない冒険者だけだ。

 このまま前線にいると死ぬ、そうナタリアは危機を覚えた。


 故に続いてナタリアも脱退を宣言したのだ。


 正直、抜けて正解だ。

 ナユタに連れて行かれた寂れた村は中々どうして居心地がよかった。

 ナナシー村は以前として復興の目処はないが住人は強く逞しく明るい。

 ご飯も美味しい。特にナユタが料理を覚えてからはなおさらだ。

 懐事情も暖かいので冒険者としてクエストを受け金銭対策する必要もない。

 おかげでぽっちゃりエルフなんて屈辱的な言われ方をナユタにされても、まあ仕方ないのかなとさえ思う。


(そっか、別に私が世界を救う必要ないんだ。)


 ナユタの言うとおり、それは勇者の役目だ。勇者のクラスを持ってるナユタがいうのは筋違いだが。


 ナタリアは今までの生き方とはっきり決別ができた。

 勇者のパーティに未練はないが、剣士として認められたかったという夢は少なからずあった。

 しかしもうそれもすっきりと忘れることにした。


 普通に、ちょっと剣が使える普通のエルフとして生きよう。

 恋をするのもいい。伴侶を見つけ、幸せな家庭を築くのも一つの幸せの頂点だ。


「よし、まずダイエットだ!」

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