ナユタとハーヴェイ

 まず大鎌を「マルチウェポン」から引き出し、周囲の雑魚を一瞬で切り刻んだ。

 これで青髪の男が率いる隊は実質崩壊だ。

 だが、有象無象なんかどうでもよくて、この男が前線に来るかどうかで俺たちの勝利条件が変わる。


「さて、君のほうからやってきたという事は私と戦おうという事でいいのだな?」


「何十万って雑魚より、あんた一人のほうが怖いんでね」


 俺はそのまま大鎌を投げつけ、槍を数本投げ続けた。

 青髪の男は一切動かず障壁でその攻撃を防ぎ切った。

 だろうな。スペルブーストのない、ただの投擲で奴の障壁を越えられるとは思っていない。

 だが、一点集中型ではなく、多重生成型の障壁の唯一の弱点がどんな攻撃でも薄い障壁で防ぐため、同じダメージゼロでも障壁を削る事は可能ということだ。

 そのまま投げやすい武器を投擲し続け、大よそ千程の武器で障壁を全て突破、頬に軽い傷を負わせた。


「見違えたな。障壁再展開よりも早く、『ただ投げるだけ』の攻撃で私に傷を付けるとは」


「やるでしょ? 舐めてるなら覚悟しな。でないなら、障壁展開すると攻撃できないって弱点見つけたり?」


「……ははっ、言うな人間が!」


 青髪の男は武器は持たず、そのまま素手で殴りかかってきた。

 しかしその拳には幾層と展開された分厚い障壁と多大な魔力が込められていた。

 障壁による防御及び魔力的圧力と、魔力そのものによる攻撃力増加が含まれている。

 俺は半身ずらし避け、カウンターのようにナイフを「マルチウェポン」から引き出し喉元を狙う。

 再展開された障壁を数十枚破くと、ナイフは刃こぼれを起こした。

 ナイフを収納し次は小太刀を引き出し、そのまま障壁を削りきり、喉元を刺した。

 人間なら死に至る負傷も、当然こいつには意味がない。


 小太刀を収納しつつワープで距離を一旦取る。

 相手の攻撃が殴りが主体ならインファイトは不利だ。


「では、これは避けられるか?」


 男は複数のスペル、いや魔法を展開する。

 いくつかは俺自身をピンポイントで狙う斬撃型と、いくつかは俺を中心とした範囲攻撃だ。

 どれを避けても何かしらには当たってしまう。

 なので最低限は避け、対魔と斬魔を付与したショートアックスと槍を引き出し、迎撃する。

 ショートアックスは面が広いので叩き斬るように、槍は手元で回転させ周囲の魔法を打ち消すように振るう。


「っ! させねえよ!」


 複数の魔法は布石といわんばかりに、男は俺の懐に一瞬で踏み込み俺の鳩尾へ拳を放ってきた。

 両手は塞がっている――というより、武器で魔法を打ち消しておかないとそのまま食らってしまう。

 俺はバックステップをしつつ、膝で相手の拳を受ける。

 当然障壁は展開されているが、しかし受ける事ぐらいはできる。

 

「お見事。少年、本当に人間か?」


「化け物扱いには慣れてるけど、一応人間だ、今はな」


 俺は大太刀と大剣を「マルチウェポン」から引き出し、「スキルブースト」を行使する。

 前とは違う、一撃一撃が理合の元に組まれた重くそして速い連撃を繰り出す。

 自身を巻き込むような派生スキルは押さえ、一振りで何重もの攻撃となるスキルを厳選し発動させた。


「ふむ、これほど傷を受けたのは久しいな」


「うっせ、どうせ直ぐ治せるくせに」


「いやいや、治せるからといっても痛いものは痛いのだよ?」


「痛みもなかったら俺の攻撃全然意味ねえから、それはよかった。それとあんたの腕、ナタリアに斬られたのに普通に生えてるのな。部位破壊、意味ないって思ったほうがいい?」


「敵にそんな無防備な質問をするほど余裕があるのか?」


「あるぜ。ていうか意味があって欲しいっていう願望?」


「流石に首を刎ねられては私とて無事ではあるまい。多分な」


「それはいい事を聞いた。試させてくれよ」


「よいぞ。ただし、無抵抗のまま首を差し出すほどマヌケではないが」


 スキルブーストも使い切った。

 エンチャント系もほぼ使って、反動が少し体に響く。

 これ以上は、今までのままでは太刀打ちできない。


 ならば。

 

「あんた、俺の師匠――霊狐と色々因縁あるんだって?」


 男はぴくっと眉間を一瞬寄せた。

 なるほど、やはりこいつも師匠に対し何かしら思う事があるのか。


「あまり思い出したくは無いがな。できれば奴とは二度と会いたくない」


「代わりに俺が相手してやるよ。『人間』じゃなくて『霊狐の弟子』としてな」


 ふう、と呼吸を吐く。

 人としての活動をするために必要な酸素を体内から吐き出すイメージだ。

 そしてすう、と深く息を吸う。

 酸素ではなく、周囲の生命力を吸収するようにだ。

 そうすると、体内にある俺の生命力――霊力に刺激が入り、全身を循環する。


 それだけならばいい。

 俺自身の生命力が体内に循環する「だけ」ならば、それでいい。

 しかし活性化させ、その霊力を働かせるとどうなるか。


 俺という体にある霊力が活性化する事で、そのまま新しい霊力を産む。

 そして産まれた霊力がさらに新たな霊力を産み「人の身では耐え切れないほどの霊力」が発生する。


 このまま霊力を体内に留めておくと俺自身の体が保たない。

 よって放出する。

 しかし放出した霊力を呼吸により再び体内へ取り込み、循環し、ただでさえ霊力を生み出すこの体へさらに霊力を滾らせる。


 人の身で、耐えられるはずも無く。

 ならば、人でなくなればいい。


「貴様、その纏う力、その耳と尾……! やはり……!」


 師匠から「それはなるべく、できれば絶対に使わないように」と言われた力。

 これは俺が人間を辞め、霊狐に限りなく近づくための姿。

 

 『白狐』


 人間の耳はそのまま、何故か頭に狐の耳と尻尾が三本生えてしまう「俺が霊力を全力で使用」する時の姿だ。


「遊ぶんじゃねえぞ。見下すな。殺す気でこいよ」


 白狐と魔神の戦いが改めて開始する。

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