白狐と魔神

 何百、何千と目の前の魔神と打ち合う。

 一撃が互いの障壁を破り、体を切り裂く。

 それを、なんどもなんどもなんども――。

 だが、俺の「霊力」も魔神の障壁も、削られ切り裂かれ消失しても、再度展開を続ける。


「化け狐の弟子と言ったか。だが、戦い方が似ても似つかぬな」


「そりゃあアレに勝つのに同じ事したら、絶対勝てないからな」


 霊力は常に放出する。

 でないと体内からの自身の霊力で崩壊するからだ。

 そしてこの周囲に展開された霊力は、「霊力が扱えるもののみ」つまりこの場では俺のみがその力を操れる。

 これが魔力であれば、恐らく目の前の魔神も利用できたかもしれない。

 だが霊力は特殊な生命力だ。

 これを意図的に扱えるのは、俺と師匠だけだ。


「くっ……」


 魔神の攻撃のタイミングに合わせ、霊力に障壁に近しい効果を与える。

 持続性はないが、一瞬でも相手の動きを鈍らせる事が出来る。

 とはいえ魔神もそれを強引に振り払い、俺へ攻撃を行う。

 無手のままなので、主に魔法がメインだったが、俺への着弾の寸前に霊力を硬化させ弾く。


「化け物の子は化け物か」


「言っただろ、舐めるなって。いつまで武器を持たない。あんたの体術、素手には向いてないのわかってるから」


「……。はあ、なあ少年。私は別にここまで生真面目に戦う気はないのだよ。負けを認めて首でもなんでも渡そう」


「そっ。首斬っても死なないのな」


「失言だったか……。信じてもらえなくてもよい。ただの命乞いだと思ってくれて構わない。だが、少し私の話を聞いてくれはしないか?」


「ん、別にいいよ」


「我々は、本気で戦争がしたいわけではない」


「そっちの人口減らしだろ? でもさ、それに付き合わされて住む場所も命も奪われてるんだぞ。我侭すぎだろ」


「……。降参してもよいか?」


「あんたが今ここで、二度と戦争しないって言えるほどの立場ならな」


「そうか。残念だ」


 魔神はふう、と息を整えると俺の「マルチウェポン」のように一振りの剣を手にした。

 一目見ればわかる。俺の太刀と同じ神の領域にいたる代物だ。


「君だけは今ここで殺しておかないとならない。君がまだ、人間でいるうちに」


「やってみろうよ。師匠すら殺せないあんたが弟子の俺を殺せるかをさ」


 人の形をしていれば、人は飛べない。宙に浮くこともない。

 だから跳躍攻撃は威力こそあれ、基本してはならない行動の一つだ。

 軌道修正不可、隙だらけ、狙ってくださいと言わんばかりの行動だ。


 しかし、もしそれが飛ぶわけでも宙を浮くでもなく、三次元的に行動ができるなら?

 それを俺の「白狐」状態の「霊力」が可能にする。


 まず大きく間合いを詰めるようにステップを踏む。

 当然着地までは地に脚が付いていてない、無防備の状態だ。

 本来であれば。


 魔神は無防備と見せかけた俺の剣撃を繰り出すが、「霊力」で一瞬行動を遮る。

 そして、俺は俺で「霊力で作り出した足場」を利用しさらに跳躍を重ねる。

 それは一度や二度ではないし、ただ前面上空ではなく、左右縦横無尽に駆け巡る。


 魔神は俺の動きを捉えようと必死だが、そもそも「空中を自在に跳躍する人間」なんて相手をした事がないわけで、経験則もなくただ目で追うのみ。

 そのまま魔神の右手を太刀で切り払った

 

「帰れ。そっちが何したいかなんとなくわかってるけど、今回のはやりすぎだ」


「……腕を斬られたのはあのエルフの剣士と君だけだよ。本当に、この時代は面白い」


「ちなみに師匠は?」


「心臓と首を斬られたな」


「馬鹿らし。さっさと帰れ」


「そうするよ。君がこのまま暴れ続けられても、色々困るのでね」


 といっても、魔神の周囲には誰もおらず奴は淡々と魔法で、恐らく撤退指示を伝え、そのままワープのようなスキル? 魔法? でこの場を去った。


 俺の「白狐」状態を解除する。そして念のため、俺も師匠も懸念していた「白狐」状態を使用した際のデメリットを確認する。


「『マルチウェポン』……なんか適当に」


 いくつか武器を取り出し、手にする。


「まあ、だろうな」


 戦は終わるだろう。ナタリアとエンブリオとエミルがいるから大丈夫だ。

 この戦の代償は、きっと命だろう。相互に望む望まれなく関係なく。

 ただ正直言って、その代償なんてものは誰かにとって大事なもので、直接俺には関係がない。


「ま、いいか」


 人を辞める覚悟なんてできていたはずなのに。

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