人を辞める代償

「ナユタ、弱くなったじゃろ」


「へいへいドワーフのおっさんよー。喧嘩売ってるの?」


 夕食後に軽くみんなと酒を飲んでいる際、エンブリオが急にそんな話を振ってきた。

 俺の強さだけを知ってるロロイナとセレンは行き成りの話題に「俺にエンブリオが喧嘩を売っている」という構図にしか見えないだろう。

 だがナタリア、エミル、アルは何も言わない。


「んー、一応話したほうがいい? これでも普通より強い人間のつもりだけど」


「知りたい。いえ、知らないといけないと思うの。恋人として」


「私も未来の妻として知る必要がある。あと場合によっては……ナユタ頼りの今の状況を、どうにかしないといけない」


「友人として聞きたいね。ねえナユタ。どうして最近『マルチウェポン』を使わないのかな?」


「そこのチビ、未来の妻の部分は取り消せ。俺はナタリア一筋……って何言わすんだ! あー、でも『マルチウェポン』使ってないわけではないだろ?」


 あー、絶対ばれてる。


「ナユタの強さの秘密は『付与師』での規格外なエンチャントと『マルチウェポン』で多彩な武器を『神位:英雄』で使いこなす事じゃ」


「でも最近のナユタは基本太刀しか使わないし、スキルも初心者?ってぐらい初級スキルしか使わないのよね」


「『英雄』が全てのスキルを使えるけれどレベルは1というのであれば、何故ナユタは太刀のスキルレベルが一部上昇している? というか取得をしているの? ボクの『鑑識眼』では誤魔化せない」


「エミルさんの意見も踏まえて『勇者』の恩恵で、無理矢理スキルを覚えたとしか思えないんだよねえ」


「「「「さあ、答えて!」」」」


「……神位ってさ、人間に与えられる恩恵なんよ。つまり、俺が人間から遠ざかれば、その恩恵は薄れる。神に与えられる側でなく神に近い、神そのものになる『霊力』を使い続けると、まあ、俺ってもう人間扱いじゃない、のかな?」


 確証はない。

 ただ可能性はあって、実際魔神と「白狐」状態で本気を出した後から、どうにも前のように「なんとなくスキルが使える」って感覚がなくなった。

 つまり今の俺に「神位:英雄」を与えられても発動できないのではないだろうか。


「ま、いいんじゃね。それでも俺強いし」


「でも、でも……!」


「俺はさ、占いで寿命五百年はくだらないって言われてただろ。多分、こういうことじゃね? 人間辞めて神に近づいて、寿命が延びる。いいじゃねえか。このままナタリアより長生きできるよう、むしろ常に『白狐』になってたいね」


 人間を辞める覚悟って、人間をの部分はどうでもよくて。

 今の自分を辞める覚悟なんだと思う。

 けど俺にはエルフの恋人がいるし、昔持ってた強さとか失っても別にどうでもいい。

 本来、ただ好き放題、まったり暮らしたいだけなんだから。

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