敗北で得たもの

「我が主、無様な敗北をお許しください」


「何故ハーヴェイが謝る? 言い訳をし頭を垂れ首を差し出すのはあの…・・・あれじゃ、あれだあれ」


「……オルコットでしょうか」


「ああーそれそれ。最初こそよかれ、たった半日で我がほうは大敗北じゃ。口減らしが理由とは言え、この損害はあまりに大きいぞ」


「全ては我が力の無さが。まさかあの『化け狐の弟子』が居ようとは」


「確かにハーヴェイは強い。我が方の最高戦力とも言える。『勇者』とて勝てまい。しかし『霊狐』という存在は既に祖父の代からわかっておる。ハーヴェイが勝てない相手が相手におってもおかしくはないとは思わないかえ?」


「しかし私はそれすらを打ち負かし、我が主に勝利を――」


「言い方が厳しくなるが、ハーヴェイ。お前の勝敗などどうでもよいだ。問題は『多方面に展開した大軍がたった半日で壊滅した』という事実じゃ」


 普通ならばありえない。

 物量も、軍の展開範囲も、ましては人間には無い飛行戦力まで投入していた。

 にも関わらず、大敗北という事実はありえてはならない。


「逆に言えばハーヴェイがその『霊狐の弟子』を一人で抑えてくれたからこそ、辛うじて全滅しなかったとも言える。その『霊狐の弟子』が各地の軍を殲滅し渡ったら?」


「お手上げですね。撤退する余裕もありません。一太刀で何千という数を葬る規格外です。何も気づかず全滅、ですね」


「逆に聞こう。ハーヴェイは前線から離れた位置にいたと聞く。それを後回しにされ軍を一掃されておったら?」


「大敗北なんて生易しいものではありませんね。戦どころではありません。それどころか、我が主の行いに群集が疑問を抱きます」


「で、あろう。運がよかったと余は考える。して、その『霊狐の弟子』はこのまま攻めてると思うかえ」


「大よそないかと。我が主の懸念通り、私よりまず他の戦力を削りきっていたなら可能性はありますがそれをしなかった。そして『人間が神に近づくにはあまりに若い』と」


「前半は同意じゃ。しかし後半は、してどういった意味か?」


「少なくても『私とほど同格に戦うほど奴は神に近づいていない』よって、私と戦って確実に勝てるほど『神格』を上げるにはまだまだ、そうですね、奴のセンスから見て千年はかかります。つまり『魔神の私』が健在な限りは向こうから攻める意味がありません。私を抑えても、他の人間が我が方を確実に墜とす事はまずありえないかと」


「ふむ。さすが『魔族から魔神に至った者』の意見は参考になる」


「恐れ多き」


「ふむ、あの……脂ぎったおっさんは斬首刑として、さて今後はどうしようかのう」


「もう十分人口は減ったのでは? 戦う意味があるとは思いませぬ」


「左様か。ではオルコットを斬首刑とし、我が国は一時停戦状態とする。まあ勝手に侵略しているから勝手な一時停戦だけれど」


「承知。早速手配致します」


「ところでハーヴェイ。戦時状態でずっと引きこもってな、これを機に簡単な旅行がしたいのじゃか」


「……お供いたします。我が主」


「旅行中はその『我が主』禁止な? ちゃんと『ガーネット』と呼ぶように」

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