英雄は来る
魔王軍防衛戦、二ヶ月目。
正直、前線の維持は出来ている。
死傷者は僕が勇者をしていた時期を含めてもかつて無い程多い。
けど、ほぼ週一で攻めてくる中規模の軍勢を相手にしているわりには及第点と言ってもいい。
怪我をしたら即逃げろ、それが方針だ。
命を落とした人には悪いけど、防衛だと言っているのに無理に前に出るから悪い、とだけ。
一々気にしてたら、僕の心が持たない。
しかし、盲点だったのは今まで陸兵しか相手にしたことが無かったが防衛戦の指揮を僕が執って一ヶ月目辺りから、飛竜型の魔物と、それに乗った魔王軍の兵士がこの前線をすり抜け、直接王都への攻撃を始めた。
攻撃自体は原始的な投石や、飛竜の火炎、簡単な魔法であったが王都防衛に騎士団を布陣しているとは言え、上空からの奇襲に対し被害を減らす以外の対策が取れないで居た。
そのまま早一ヶ月。
王都の貴族や住民は既に避難済みだが、敵飛行部隊は王都攻撃の手を辞めなかった。
ブレンド王国の地理に詳しくなく、他に狙う場所がないからか、これを機に王都の機能をなくすつもりか。
僕は指を噛む。
打開策が、今の僕にはない。
「先輩、キリがないです。相手自体は大したことないんだが、倒しても倒しても、次の日には当たり前のように同じぐらいの数がいますよ」
ツバキ君がそう報告をくれる。
彼の戦闘能力は僕が想像していたよりも高い。
遊撃として敵陣に切り込むなら、一人のほうがいいとパーティメンバーを防衛に回してくれたが、きちんと前線に到達する前にかなりの数の軍隊を全滅させている。
「そればかりは相手にそろそろ手を抜いてくださいと祈るしかないからね。ツバキ君は今週ぐらい休んだらどうだい?」
「いえ、大丈夫です。特に疲労感もダメージもないんで、むしろもっと広域で暴れようかと思うんですが、先輩はどう思いますか?」
何故かツバキ君は僕の事を先輩と呼ぶようになった。
いや勇者としては確かに先輩なのだけれど、二ヶ月前との態度の違いに少し驚いている。
「もともとツバキ君は防衛に対していないものとして考えている。だから、無理が無い程度であれば頑張ってもらいたい」
「了解っす。魔王の領土ですから、地形ちょっと変えるぐらい良いですよね」
「……まあ、うん」
そして、来るべき日が来た。
「アル殿! 飛竜の大群を確認、目視もしくは『探索』で確認できる限り千はくだらないかと!」
「……王都には誰にもいないんだよね」
「…………」
「ザイク! その間はなんだ!! いるんだな!? 王都にまだいる馬鹿がいるんだな!?」
「はい……都民は全員避難積みですが、一部の貴族が……」
「……捨てておけ。ザイク、今から行政を行うのに適した土地を探しておいてくれ。この戦いの後、そこを興すための手配も頼む」
「承知しました」
「それで、陸兵はどの程度だ?」
「今のところ五万程度ですが、ハヅキ殿次第では三万までは減るかと」
こちらは二千いるかどうか。
ギリ、いけるか?
「僕も出る。この戦いが勝敗を分かつと思え!」
「きっついなあ……」
負傷した味方を回復しつつ、前線で戦い続ける。
概ね一万程度は撃破した、という所か。
僕はMPポーションを飲んで一息つく。
ブーストスキルの残カウントが怪しい。
特にスキルブーストは攻撃の際常に残カウントが減りつづけ、リキャストが追いつかない。
ここで強敵、もしくは大軍との相手は避けたい。
避けたいが、避けちゃ意味がない。
「このデカブツ、ただデカイだけであってくれよ……!」
テレポートでデカブツの真上に移動し脳天を兜ごと貫く。
当然スキルを使用するのでスキルブーストのカウント消費が始まる。
「頭に剣刺されてもなんともないのか……!」
スキルブーストを解除し、テレポートで射程外に逃げる。
「勇者殿! 手助けを――」
「邪魔だ! 君らは手を出すな! 下手に負傷されて僕のMPを無駄遣いさせるな! 回復中、僕は戦えないんだぞ!? 身の丈にあった敵を相手にしてくれ!!」
物言いが演技していた時期と混ざってる。
余裕がない。
早く、早くこいつを倒して、味方のフォローに回らないと……。
――なら、こんな奴一瞬で倒せたのかな。
「なんて、泣き言を言ってる暇があるか!!」
スキルブーストの残カウントを度外視し、ソードダンスでデカブツを斬って斬って斬り続けた。
痛覚がないのかダメージが通っていないのか、気にもせず攻撃をされるがテレポートで回避し、そのまま斬撃を繰り返す。
スキルブーストが途切れ、ただの冴えない斬りになっても手を止めなかった。
「――」
やっと、デカブツは膝を付きそのまま倒れこむ。
念のため首を落とし、心臓を貫く。
これでスキルブーストがなくなった僕は攻撃としては無力だ。
あとはスペルブーストとMPがある限りヒーラーとして動くだけ。
「あれ?」
砂の味がする。
目の前が真っ暗、体に力が入らない。
転んだ?
意識はある、でも動けない。
「行かなくっちゃ」
感覚がないが、手足の少しは動く。
このままじゃ守れないし、もし敵がきたら僕は死ぬ
少しでも、少しでも――。
「小僧、がんばりすぎじゃ。少し休んでおれ」
聞き覚えのある、低くも暖かくて優しい声が聞こえた。
「『アトラクト・エクステンド』 ほう、そこそこ奮闘しているようじゃな。まあ、この程度ならワシ一人で肩代わりできるかのう」
「エンブリオ……!」
「安心せい、もう大丈夫じゃ。この場では『誰もダメージを負わぬ』 だからアル、自分に回復スペルを使ってもいいんじゃぞ」
英雄に、安心しろと言われ僕は肩の力が抜け、そのまま気を失った。
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