メンテナンス

「あの、剣の手入れをお願いしたいのですが……」


 鍛冶工房に珍しい顔が訪れた。

 って言っても、毎日見ても見ても飽きるどころか見続けたい顔だが。


「ナタリアか。なんか用?」


 おやっさんには誰も入れるなってお願いしてたんだが、ナタリアだから通したのか?


「ってナユタ!? 何ここの持ち主みたいにふんぞりかえってるのよ!!?」


「何故って聞かれると、簡単に言えばおやっさんにこの工房を貸切で使わせてもらってるから」


 俺のサードクラスは鍛冶師だ。

 時々思いついた武器を村の鍛冶師のおやっさんにこの工房を使わせてもらい作成している。

 当然、世間的には国宝級の武器になってしまうため、こうやって貸切ってこっそり作り、『マルチウェポン』で収納する。

 俺は国宝級量産機器扱いにはされたくない。

 ただでさえ英雄として目立ってるから余計だ。


 ギルドにも作成した武器の仕様はほとんど教えてない。

 当然、国宝級武器を作れる事も黙っている。

 が、一つでも国宝級武器が作成可能と知られれば、『マルチウェポン』に収納されてる武器がそれ相当だと感づかれてしまう。

 <英雄>のメンバーに安易に武器を提供しないのはそのためだ。


「んで、剣の手入れだっけ? 見せてみ」


「これなんだけど、刃こぼれ目立ってね。いっそ買い換えるか、研げば元に戻るかわからなくて相談しようかと」


「おい怒っていい? いや怒る権利は俺にはあると思う。だから……あとでマシュマロ触らせろ」


 ナタリアのマシュマロ、つまりあのふわふわしたお腹のお肉だ。


「別に触ってもらえるのは嬉しいけど、怒られるってところはよくわからないんだけど!?」


「俺、サードクラス鍛冶師。全然ギルドカード更新してないけど最低でもLv67は確定。んでだ、なんで俺に聞かないの?」


 ただの手入れ相談ならまだしも、買い替えも視野に入れるとなれば別問題だろ。


「それは……、うん、ごめん。そうだよね、まずナユタに相談すべきだよね」


「わかればよろしい。エミルの監視が怖いから、夕飯の後はナタリアの家な」


「夜中に二人で外出って時点でもうお察しだと思うけれど……」


 いいんだよ、エミルはあれで俺らが節度さえ守ってればとやかく言わない。

 ただ、頭でわかってても実際に現場を遭遇してしまうと心が納得できないって節がある。


「まあそれが報酬として、剣を研ぐか新しく買うかって話だよな。まず見せてみ?」


 ナタリアは剣を俺に預ける。

 剣士、いやクラスに該当する己の武器は命に値するとすら揶揄される。

 あっさりと俺に渡してくれる事に喜びを覚えつつ、それをおやっさんに預けようとしたってことに苛立ちを覚える。

 こりゃお腹摘むだけじゃダメだな。耳も甘がみしてやる。

 ……やりすぎるとナタリアが俺を襲おうとする程度に発情するから、あくまで適度に。

 ナタリアが目の色変えた瞬間『フルエンチャント』で防がないと間違いが起こるレベルだ。


 そういうのは、ちゃんとお互い事前に心構えをして挑むべきだ。

 突発的な雰囲気に流されてはいけない。


「うーん。研ぐのも買い換えるのも、不正解ってところか」


「武器の手入れってその二択しかないのと思うのだけど、どういうこと?」


「使い込み過ぎている。確かにこれ以上研いでも切れ味が戻るどころか耐久性がどんどん減って、結局刃こぼれの原因に直結する。今は訓練で剣を使ってるだけだろ? でも耐久の怪しい状態の剣を実戦で使うとしたら?」


「そう言われてしまうと、新調するべきかなって。持久戦になった場合、武器の耐久度は重要だし」


「けど、安易に使い慣れた剣以外を入手しても、その重さとか握った感触とか、あとはまあ個人の拘りとか諸々あるし、使い勝手が変わりそれがそのまま剣の腕の劣化に繋がる。なのでどっちも不正解」


「二択しかないのにおかしくない? いえ、どちらが最適かは個人の問題として、どちらかを選択しなければいけないのに、どっちも不正解というのはどういうこと?」


「両立させればいい。3つ目の選択肢。元に戻せばいいじゃん?」


「いやそれができないから……、いえ、ナユタにはそれができるのね」


「そう、それが俺が提案できる最適解。研ぐでもなく、新しく買い換えるでもなく、使い慣れた剣を全盛期の状態に戻す。これが一番だ」


「言うのは簡単だけれど、本当にできるの? いえナユタを疑うわけではないけれど」


「大丈夫大丈夫。俺を信じてくれ」


「……。うん、もちろん」


 愛するナタリアに了承を貰ったので、久しぶりに本気を出す。


 錬金術のスキルで剣を解析する。

 剣自体の構成はもちろん、今までどのように大切に扱われてきたかという歴史を。


 おいこいつ、時間だけで言うなら俺より愛されてるじゃねーか、失敗したと嘘ついてこのまま叩き折ってやろうか。


 まあ冗談として、解析完了。

 錬金術のスキルでその剣をまずそれぞれの素材として分解する。

 加えて、全盛期の頃より破損した結果、不足している分を練成する。


 後は鍛冶のスキルと錬金術のスキルを合成し、ナタリアが一番手に馴染む剣を再作成した。

 実質新品。

 今まで使ってきた剣の全盛期を再作成する。

 これが俺の最適解だ。


「ほれ、出来たぞ」


「凄い……。こんな事できる職人がいるなんて……。やっぱりナユタはチートよね」


「耳舐め十分耐久勝負挑んでんのか? お前が発情して襲ってきたら『フルエンチャント』のビンタだけど?」


「受ける! 最悪あのビンタ食らってもいい!!」


 うーん、このエルフ、最近ぽっちゃり感は減りつつあるけどちょっと色欲エルフになってるなあ。

 俺も自重したいほうがいい?

 いや、それはそれで俺も無理だし。

 どうしたもんかね?

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