開戦の兆し

「好きなんよ。全部」


 ナユタは笑顔のまま。

 周囲からすればそれしかないが、霊力だったり、もしかしたらそれ以外もあるかもしれない何かを展開する。


「邪魔なら、消そ」


 まずはエルフの長の首を切った。

 そして即治した。

 さらに手足を斬り、何事もなく治す。


「なーんてね。俺は、まあ白狐枠だから、好きにしたら?」


 ナユタはそう言うと平然とその場を後にした。

 残された者は、ただただ彼から目を逸らし続けるしかなかった。




 それから数十分の沈黙が続くが、それを破るようにサツキが声を上げた。


「俺、噂程度ですけど、ナユタさんと魔族の偉い人が仲がいいって聞きました」


「は? それは我らへの敵対行為であるか?」


「いやエルフの人さ。そういう次元じゃないっしょ。ナユタさん、ブチギレじゃないっすか。あんたが言ったのって『おめーのお友達ぶち殺す』って言ったようなもんでしょ? で、あれっすよ。エルフさん、大丈夫?」


「……あの程度の幻惑魔法に屈するとでも?」


「あー、一応わかってたんすね、よかった。あれも理解できねえ奴だったらマジでヤバいなって思ってたんで」




「『勇者』は不参加、いやナユタさんに付くっす。んじゃ、あとはがんばってね」


「同じくドワーフ代表カッコ仮のクジラ。今って結構平和よ? わざわざ喧嘩しなくてもええでしょや」


「人枠、アル。お二方に同意。魔族と戦いたくば勝手にすればいい。一応警告すると、その場合白狐を敵にすることになることだけは認識して欲しい。彼が本気を出せば、世界は滅ぶからね」



「ふう、低能はやはり何もわかってないようですね。戦は勝って意味があるもの。この私が折角勝ち馬に乗せてあげようというのに……。ああ、悲しいなあ」


 エルフの長は思ってもない嘆きを口にすると、演技かかったように指を鳴らす。


「さて、世界を取りましょうか」





 

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勇者より強いけど、パーティ抜けろって言われたのでまったり生活する 狐雨夜眼 @kosameyome

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