日頃の行い

 今日の依頼書は偶然にもほぼ同じ場所を指定していた。

 なのでまとめて狩ることにする。

 同じモンスターを複数の村人が目撃し、それを依頼している可能性はなくはないが、見た目の特徴がそれぞれ違うので可能性は低い。


 ソロ狩りは基本的にロングアローによる狙撃がメインになる。

 わざわざ近接するメリットがないからだ。


 『索敵』を使用し、3体のモンスターの存在を確認した。


 ロングアローの射程内ではあるが『索敵』の視界外なのでゆっくり近づく。

 ロングアローは弓術士の上位が持つ『鷹の眼』があってはじめてその超遠距離が可能になる。

 だが俺は弓術のスキルは一切無い。

 あくまで弓よりは射程が長い程度にしか扱えない。それも『索敵』があってこそだが。


 『索敵』の視界内に虎型1匹のモンスターが入る。


 俺は息を殺し、額を打ち抜く。

 モンスターは悲痛な声を上げ、そのまま息を引き取った。

 本来なら素材を剥ぎ取るのだが、ナナシー村では買取先がない。

 そしてモンスターは例外なく食用に向かない。むしろ毒だ。

 よってこのまま次のモンスターへ。


「当然か」


 虎型のモンスターの悲鳴で残り2体のモンスターが元居た場所から急に移動した。

一匹は俺から離れ、もう一匹は――


「なるほどな」


 まっすぐこちらに向かってきた。

 同じく虎型のモンスターは真っ直ぐこちらへ向かってきた。

 そして『索敵』視界内に入ったのでロングアローを撃つ。

 当たりはしたが命中箇所が右の肩でダメージは少なかった。

 多少の移動速度低下はあったものの、やはり俺めがけてつっこんできた。


 既に弓の範囲内。

 しかしこうなってしまえば威力の低い弓を使用するメリットはあまりない。


『大剣』


 俺の身長ほどある剣を取り出す。

 見た目に反して案外軽いが、それでも片手で扱うのは難しい程度の重量がある。


『加速』


「!?」


 モンスターにどれほど知性があるかはわからないが、俺が急に目前に現れ一瞬膠着する。

 その隙に虎型のモンスターの首をはねた。


「さてあともう一匹……ってやべえ」


 もう一匹はあろう事か村の大通りにでてしまっていた。

 それだけならまだいい。きっとそいつら日頃の行いが悪いのか、『索敵』の反応からして馬車と遭遇していた。


 俺の『索敵』は敵を見つけるだけではない。射程内のほぼ全ての生体反応を察知できる。

 虫とか色々と反応してしまうのでフィルタリングをかけ、敵と人間もしくはそれに 順ずるものを主に察知させている。

 モンスターの付近には人間もしくは人に順ずるもの10人、馬2頭あったのだ。


『加速』


 再び加速で森を駆け抜け、最短距離で大通りに出る。

 森と違って舗装された道ならば加速でほぼ一瞬でモンスターの傍にたどり着ける。


『投槍』


 走りながら俺は『索敵』の視覚内にはいったモンスターに槍を投擲する。

 多少は時間稼ぎになったか?


『加速』


 加速は重ねがけできる。ただし、最初の加速である程度の速度がついていないと発動ができない。


『刀』


 先の大剣では勢い余って周りを巻き込む可能性があるので俺は刀を手にする。

 加速で勢いを付けたまま俺は跳躍し、刀で袈裟懸けに虎型モンスターを切断する。


 ふう、と息をついて馬車を確認する。

 特に被害はでてはいなさそうだった。


「おーい、大丈夫か?」


 御者は恐らく逃げ出したのだろう。

 俺は布で覆われていた馬車の中を確認する。


「……。へえ、日頃の行いが悪いって勝手に考えてたけどマジじゃねえか」


 索敵に反応があった10人のうち、8人は歳幾ばくもない子供だった。

 それも皆が皆襤褸切れだけ与えられ、顔色も悪ければガリガリに痩せ細っていた。

 中には痛々しい傷をおった子もいる。


「こ、この度は助けていただきありが――」


 恰幅のいい綺麗な服装をしているおっさんの首を刎ねた。


「ひっ、何をする……!!」


 もう1人、少しやせぎすな男が驚きを隠せないでいる。


「え、この状況見てお前助かると思ってるの? 犯罪奴隷商が」


「奴隷商の何が悪いというのだ! 国に認められている制度だぞ!!」


「いやいや、制度は認められてる。けどこの子たちの扱い、普通に極刑だからな?」


 奴隷は認められている。

 しかし人権は約束されている。

 魔王と戦争中、モンスターもはびこるこの世界だ。

 老若男女、色々あって身売りしないとならない事もある。

 戦時下なのでナナシー村のような被害をうける町や村がある。

 その復興に労力が必要な際、奴隷を労働力として金で買い解決するのだ。

 もちろん奴隷も食い扶持が手に入るので互いにメリットがある。


 だがこの子らはその意図から外れてる。

 飯もろくに与えられていない。それどころか怪我を負っている子もいる。

 それが労力になるわけがない。


 つまり、闇ルートだ。

 俺も曲がりにも元勇者パーティの一員だ。

 その手のバイヤーを潰すことも珍しくは無かった。


 俺はおっさんの首を掴み持ち上げた。


「はーい、良い子のみんなー。このおっさんに酷いことされちゃったのかなー?」


 俺は慣れない笑顔で話しかける。

 子供たちは恐る恐る頷く。


「そっかー。ちょっと難しいお話なんだけどね、このおっさんは君たちに酷いことをするっていう犯罪者なんだ。だからね、殺さないといけないんだ。でもさっきのデブのおっさんみたく俺がやってもいいんだけどさ」


 俺は慣れた残虐な笑みを浮かべた。


「おっさんが憎くて殺したいって子がいたら、是非殺して欲しいだけど、誰かいるかい?」


 案の定、誰も手を上げなかった。

 まあ、そりゃそうか。


「……私、やる。この男を殺すのが正しい事なんでしょ?」


「俺も!」「僕も!」「私も!」


一人が手を上げると、それに習うように全員が手を上げた。


「だってよ、おっさん。俺が一瞬で殺してやってもいいんだが、この子たちがその気なんだ。十分苦しんで死ね」


 俺は『マルチウェポン』でいくつかの武器を出現させた。


「武器は俺が用意した。人を殺す機会は普通ないからどうやったらいいかわからないだろうけど、何、みんなで色々試してみるといい」


「この悪魔!」


「うっせえよ。こちとら地道に世界平和目指してたのに、おめえみてえのがいるから牛歩になってんだよ」


 勇者のパーティにいた頃を思い出す。

 やってきた事は半分は魔王討伐のための旅。

 半分はこういうクズの始末。


「ぎゃっ、やめてくれっ」


 子供たちは俺の用意した武器でおっさんの手足や体を試し試しに切り刻み、刺し穿っていた。

 あえて教えない。その程度じゃ人間は死なないと。


「もう、殺してくれ……」


「はい、良い子のみんな。実はお兄さん一個隠し事してました。人殺しも犯罪なんだ」


 そういうと子供たちは顔を青ざめ、手にした武器を落とす。


「けどまだおっさんは死んでない。だからセーフ!」


 子供たちはポカーンとした表情をしていたが、俺はまた慣れない笑顔で言葉を続ける。


「でもお兄ちゃん、あの男の人殺したよ?」


「あ、俺は許されてるの。見てわかるかな。ギルドカードってんだけど」


「知ってる。冒険者や商人の人が持ってる奴。お父さんが持ってた」


「ここの文字読める?」


「よめない……」


書かれていたのは「罪人殺害許可」なのだが、難しい文字だったか。


「まあ簡単に言うと、俺は悪い事した人なら殺してもいいよって言われてるんだ」


 じゃあいいのかー、なんて子供は納得してくれた。


「それじゃ、俺が住んでる村に行こうか。暖かい風呂と美味い飯用意するよ」


「ま、まってくれ俺はどうなる」


「あんたのギルドカード、さっき首掴んだ時にいただいたから、犯罪者として申告しとく」


 もちろん太ったほうのもだ。


「そうじゃなくて! 俺こんな怪我してるんだ、動けねえんだよ!!」


「じゃあそのまま餓死するか、モンスターにでも食われてろ。運良く生き残れても犯罪者だがな」


「犯罪者のほうがマシだ!! 助けてくれよぉ!!!」


 おっさんの気持ち悪い絶叫を無視し、ナナシー村に戻った。


 あー、今日の依頼1件しかクリアできなかった。

 まあいいか。

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