ナナシー村の冒険者ギルド(自前)

 冒険者ギルド。


 その名の通り、冒険者のための施設だ。

 当然ナナシー村には存在していない。


 よってよそ者がこの村に滞在する理由は単純に目的地がこの先の大きな町、サザー街に向かう一行が一晩泊まっていくか、もしくはこの周辺でモンスター狩りをする冒険者パーティかのどちらかぐらいしかいない。


 前者はこんな寂れた村でも野営するよりかはマシだと、月に数団体は村に立ち寄る。

 後者は皆無。なぜならこの村にクエストを依頼する金がないからだ。




「ナユタさん! この依頼お願いできませんか!?」


「いや俺の依頼のほうが重要だ! 見てくれ、西の森にまたモンスターが!」


「いやいや――」


 俺の料理屋計画その1

 まず村の治安問題の解決。

 村内部に目立ったいざこざはない。そんな余裕がないのだ。

 問題は外部。基本的に村の外は森に囲まれており、何故かモンスターにとって住みやすい環境らしく頻発してモンスター被害が出ている。


 この問題が一番根が深い。

 普通に住む分にはいいが、外の人間を呼ぶには危険な場所なのだ。

 外部からの収入、外需がなければ村は潤わない。

 かといって村人がモンスターと戦えるほど力は無い。

 当然、冒険者に依頼する金もないので冒険者ギルドはあてにならない。


 ……俺のポケットマネーでギルドに依頼すれば冒険者がきてくれて、それで外需は確保できるんだが、根本的な解決には至らない。


「とりあえず全部引き受けるから、ちゃんとした依頼書をそこのポストにつっこんでおいてくれ」


 よって、俺が格安でモンスター討伐をうけることにした。

 俺の料理屋予定の1階ホールを窓口とし、カウンターと一個のポストを設置した。


 自分から狩りにいけばいいのかもしれないが、どこにどんなモンスターがいるかわからないまま森を散策するのは非効率的だ。

 なので村人の目撃情報を元に目星をつけることとした。

 一通り依頼者がポストに依頼書を投函し終えると、その内容を確認する。


 うーん、どれも危険度高いなあ。


 あくまで一般的に、という話で。

 最初は村人の誇張かと思ったが、むしろ実際に出くわすモンスターは想像以上だった。

 これを冒険者ギルドに依頼すると、村が半月もかからず干からびる。


 モンスターがこの村を直接狙うことは稀ではあるが、脅威なのは変わりない。


 さて、運動不足にならないよう、討伐しにいきますか。




「あら、その格好モンスターでも狩りに行くの?」


 偶然ナタリアと出会う。

 美人が台無しのジャージ姿で犬の散歩中だ。

 口にすると怒られると思うが、勇者パーティの頃に比べて明らかに肥えてる。

 ま、それだけ平和を謳歌してるってことか。


「手伝おうか?」


「いやいい、大したことない」


 本音、あんたの今の体格じゃ昔の装備着れないと思うので。

 ナタリアも俺と同じく攻撃重視なので極端な話そのジャージに剣を持たせるだけでかなりの戦力になるだろう。

 流石に剣技まで衰えてないよな?

 だが、昔着ていた服が着れなくなっていたという事実は、きっと女性にとって屈辱的だろう。

 そんな俺の心配から、お断りをさせてもらった。


「そう? まあここらで出てくるモンスターでナユタが遅れをとるわけないか」


「まあ、そんなとこ」


 適当に誤魔化すが、俺だってそこまで強いわけではない。


 確かに俺から見れば弱いモンスターしかいないが、一般的な危険度が高いモンスターばかりだ。

 そんなのがしょっちゅう出現している時点で地脈になにかしら異変があると考えられる。

 いずれ、俺一人では手に負えないユニークモンスターが出てもおかしくないと俺は推測している。


「じゃ、いってくるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る