一章
俺が選んだ村。俺のための家
「ナナシー村」でエンブリオとナタリアは好みの空き屋を購入し、自由気ままな生活を送っていた。
俺は村長にお願いし空いていた土地を購入し、村の腕利き職人に依頼し一軒屋を建てて貰っている。
独り身の俺には広すぎる土地だった。
いやこれ絶対分不相応だろ。
ともあれ完成までおおよそ1ヵ月かかるとのことで、それまでは安い宿を使わせてもらっている。
安宿と侮ることなかれ、朝晩と飯が出るのだ。しかもめっちゃ美味い。
あれ? 一軒屋建てる意味なくね?
「ようあんちゃん。家だが順調だぜ。今なら追加の注文も受けられるぜ。もちろんタダだ」
「三食勝手に出てくる何かそんな機能が欲しい」
「ははっ、流石に俺でもそれは無理でえ。できたとしても一生分の食費より高い魔法師雇わないとな。給仕者雇ったほうが安く済むぞ?」
「もちろん冗談だ。だが給仕者は考えておく」
「ほんっとあんちゃんは面白れーな。給仕者を雇う金がある勇者様のパーティメンバーがこんなしみったれた村で余生過ごすって言い出したんだ。驚き通りこして笑うしかねえわ」
ここは半年前、付近に出来た魔獣増殖の陣によって毎日魔獣に襲われていた村だ。
誰が陣を形成したかは未だにわからないが、勇者様の気まぐれで増殖した魔獣と陣を破壊した。
それ以来俺たちは英雄として手厚く扱われている。
その恩があるから受けいれて貰えるだろうという打算も含めつつ、今はこの町は魔獣の被害でまるで廃墟みたいな殺風景さは残っているが、元々ここの住人のレベルは高いので余生を過ごす候補地と考えていたのだ。
先程も言ったとおり、一番安い宿ですら他の村、町、国ですら凌駕する飯の美味さ。
棟梁の技術も世界でも屈指のレベルだ。
だから俺はこの村を選んだ。
平和な村、と思うが時々面倒ごとが起こる。
「召集! モンスターの生き残りを確認!! あと数十分で村に到達!!」
村の護衛兵が大声で叫ぶ。
「あんちゃん、すまねえ。俺も行かねえと。せがれには一通り叩きこんでるから、家は約束するぜ」
この村のルール。陣は破壊したが勇者PTは全て魔獣を倒したわけではない。
なので毎日偵察をし、モンスターを発見し次第村で戦える人員を集め駆除に当たる。
棟梁も招集される側だ。ただでさえ人が少ないのに、技術あるものまで対象だ。
村長馬鹿なの? あの勇者並に馬鹿なの?
「棟梁。さっきの追加の件な、トイレは水洗で頼む」
水洗トイレは王宮貴族ですら一部でしか導入されていない技術だ。
俺も最初利用した時驚いた。レバーを引けば水が流れ糞尿を流すだけで十分驚きなのだが。
便器に座ると、ボタンを押すだけで肛門に適度な水流が汚物を洗い流していたのだ。
硬い紙で尻を拭く手間が激減し、なおかつ尻に傷を付きづらくなる。
こんな天才的な発想をする奴に敬意を表したい。
「それぐらい構わないが……」
さすが棟梁。あれを再現できるのか。
排泄は日常において当然のように起こる。
俺のスローライフにおいて、日常の当たり前を快適にするために俺は何も惜しまない。
「『マルチウェポン』ナユタ。モンスター退治請け負うぜ」
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