勇者より強いけど、パーティ抜けろって言われたのでまったり生活する

狐雨夜眼

プロローグ

ありがとう、クビ宣言

「お前、雑魚だからこのパーティから抜けろ」



 勇者は俺にそう告げた。

 栄誉ある勇者パーティから解雇通告を受けたなら、普通どう思うのだろうか。

 そもそも雑魚って言われた時点で悔しいとかか絶望とか抱くんだろうな。


 だが俺は違う。


「うっす。じゃ、さよなら。二度と会うことねえだろうからがんばれな?」


 よっしゃあ!

 やっとこのクソパーティから抜けられる!


「り、理由は聞かないのか!?」


「いやー、俺が弱いからでしょ? 何あんたそういうの付きつけて悦にいるタイプの人?」


「いや、そんなのことは」


「俺が弱えーのは知ってるよ。最初声かけてもらったのはありがかったが、そっから全然成長しねえんだもん」


 嘘だ。逆に勇者パーティが弱すぎて逐一俺が矢面に立っていた。

 勇者様といえば戦闘は俺らに全部ぶん投げで全然成長しない。


 この間、わざと1匹の雑魚ゴブリンを見逃し、勇者と戦わせたが辛勝、しかもちょっとした傷でぎゃーぎゃーわめいて「この役立たず!」と俺らにキレる始末だ。


 回復師は勇者以外に回復をしないから、レベルもスペルレベルも上がらず、ポーションで治る程度のその傷もろくに治せず「勇者様にこんな深手を……。」なんて言い出すし。


 要はこのパーティはクズだ。居る意味がない。

 なんでちょくちょく手を抜いて、いや最近はほとんど真面目に戦ってない。

 当然勇者も戦わざるを得ない状況を毎度作ってやった。

 前衛を一任されてる俺が、わざとふがいない状況を続ければこうなるのは当然か。


 勇者からの扱いは悪かったが、パーティのクエスト報酬は均等にというルールから俺の懐は質素であれば一生分はある。

 もうこんなクズのお守りをしなくていいと清々する。


「ではわしも。ナユタがいなければこのパーティで生き残る自信がありませぬ」


 え、なに言ってるのこのドワーフのおっさん。


「戦士エンブリオ、我が身が惜しいのでこのパーティをぬけさせていただきます」


 エンブリオは150cm程度の小柄な体格だが人の数倍もの筋力を誇る。年齢は自称500歳、茶髪の逆毛と口元の髭が似合うダンディなおっさんだ。大斧を片手でスイングし、状況が状況なら数十の魔物を一撃で屠る勇者のパーティに相応しいドワーフだ。

 しかも魔法も土属性なら一流の魔法師並に扱う。本人は極める気がないのか最低限の魔法しか取得していないのだが。


「同じく剣士ナタリア。抜けさせてもらいます」


 次に手を上げたのはエルフのナタリアだ。

 170cm程度はある女性だ。

 金色のロングヘアを特に着飾らずそのままのストレートだが、その髪は痛みはなく綺麗に輝いている。

 目は青い瞳で少し切れ目だが全体的に整った顔立ちをしている。

 俗に言う美人というやつだ。

 彼女も剣士というが、当然剣の腕は一級。そして魔法も風と水なら一流の魔法師以上である。


「ははは、冗談はよしてくれよ。ナユタは雑魚だけど、エンブリオとナタリアがいなかったらこのパーティどうなっちゃうのさ」


 あ、こいつ一番言ってはいけない事言いやがった。


「他に雇えばいいのでは? 勇者様は1人でも魔王を倒せるのですから」


「ナユタがいなければとっくにワシらは死んでいた。ナユタを解雇するならいずれ死ぬ身。居ても居なくても同じでは?」


「……それもそうか! 今までそれなりに助かったよ、じゃあな!!」


 きっと勇者はなんも考えてないな。

 ナユタこと俺、エンブリオ、ナタリアがこれまでずっと勇者のお守りをしてたなんて気づくわけないか。




 それから俺らは各自身支度を済ませた。

 女性のナタリアは俺らより荷物が多かったが。


「んじゃ、また縁があればよろしくな?」


「いやわしはナユタについていくぞ?」


「は?」


「当然でしょ。実質リーダーなんだから」


 エンブリオとナタリアは不可解なことを口にした。


「いや俺、そこらの田舎で一人でゆっくり暮らすつもりなんだけど」


 金はある。適当な家を買って、物入りなら冒険者として稼いでスローライフを送るんだけど。


「奇遇じゃな、わしもじゃ」


「私もよ。毎日戦いばっかで疲れたし、もうお婆ちゃんみたいな生活もいいかなって」


「枯れてるなあ」


「寿命の短い人間であるナユタがそれを言うか」


「ま、違いねえ。んで、俺が決めた村にお前らも住むってか?」


「そういう事。お互いバラバラな所で住むと、色々面倒なのよ。元勇者パーティ的に」


「たしかにのう。ゆっくり生活したいのに元勇者のパーティメンバーだからって色々担がれるのは面倒じゃろ」


「それが3人なら多少はマシ、か。いや理屈おかしいけど、下手に力持った村が3つできると争いがおきるか」


 じゃあ一つの村に戦力が集中していいのかといえば、良くは無い。

 だが周辺が勝手にしかけてくる分には俺ら三人がいれば被害はほぼない。

 そして俺らの村が調子乗って他の村を襲う事になれば、単に脅せばいい。


 あくまで勝算は俺ら三人の存在だ。拒否すれば終わり。

 仮に俺らの存在を利用して勝手に動くなら脅すなり殺せばいい。


「ということで、よろしくね『マルチウェポン』のナユタ」


「はあ、結局いつも通りか」

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