決戦前夜?
日が夕暮れになる頃に村へと戻り、ナタリア、エミル、エンブリオ、アル、ロロイナ、セレンを家に招き夕食の時間とした。
最近お互い疲れのせいか、ろくに飯が食えてなかった。
訂正、俺がろくな飯を作れてなかった。
なので普段より気合を入れて夕食を用意した。
ナタリアとデートに行く前に、牛肉の塊を塩と胡椒を振り寝かせておいた。
フライパンでまず弱火で牛脂を暖めつつ刻んだニンニクで香りを付け、強火に代え、その牛肉の表面をそれぞれ焦げ目が出来る程度に焼く。
火が通り切らない内にフライパンから取り出し、氷水に浸たした。
それを薄く切り、牛のタタキの完成だ。
タレはシンプルに醤油かポン酢にしよう。
付け合せにタマネギのスライスと摩り下ろしたニンニクと生姜を用意した。
パン派と米派がいるので、どちらも用意しておいた。
パンは発酵させる余裕がなかったので村で買ったものだが、米は土釜で炊いた。
まあ、俺が米派だからちょっと気合入れたんだけど。
スープは手抜きだが、普段店で提供しているコンソメスープをベースに牛のタタキにあうよう中華スープ風に味を胡麻等で調える。
無理矢理な味の変え方なので不味かったら、コンソメスープを出そうかと思ったが、味見をしてみると独特だがそれなりに美味しかったので採用した。
サラダは全体的に和風寄りのチョイスだったので、あまり考えずシーザーサラダにした。
和風サラダでもいいけれど、触感や味付けが似通ってしまうのであえて洋風にする。
あとは口休めにナスとキュウリ、カブの漬物を用意した。
成人迎えた連中のために、冷酒とワインのそこそこいい奴を用意する。
……、あれ、未成年なの俺とセレンだけ? てかセレンもそろそろ二十歳か。
最年少、俺。
うーん、なんだろ、納得いかん。
ま、あとは何か足りないって思ったら適当につまみを作ればいいか。
「てことでお待たせ。まあこの二週間みんながんばったね、的な感じで今日ぐらい何も考えず騒ごうか」
「「「「「「かんぱーい」」」」」」
「おいちょっと待てセレン、しれっと酒に手を出してんじゃねえよ」
「私の故郷だと十八歳で飲酒オッケーなんで、何も問題ないですよ?」
「そっかー、でもなー。ここブレンド――」
「移民者の場合、自国のルールと他国のルールが一致しない場合、どちらも適用される。これがブレンド連邦王国のルール。この場合「セレンの故郷は十八歳で飲酒が認められる」という法と「ブレンド連邦王国は二十歳から飲酒が認められる」という法が存在し、本人の意思でどちらを優先するか決められる」
エミルのありがたい説明に俺は混乱する。
つか、さすが公爵の娘、こういう知識はきちんとあるんだな。
「は? 雑すぎじゃね?」
「連邦王国、という成り立ち故のルール。寄り添いあった国々が同じ法を共有するのは難しかった、と聞いてる」
「じゃあ俺ヒガシ出身だから十五歳から酒飲めるってこと?」
「……ナユタの出身をさらっと言われるの驚きだけど、まあそういうことになる」
「じゃあ俺も酒にするか。今日の酒は冷酒にするか」
「……ナユタ? 『今日の酒』ってどういうことかしら?」
「え、もう合法だってわかってたから言うけど、俺普通に酒飲んでるぞ?」
「まあ冒険者は荒くれ者が多いし、未成年でも平然と表で酒を飲んでおる。隠れてただけマシじゃろ」
全員での酒盛りが始まる。
酒のつまみもうちょい作っとくべきだったか。
ナタリアとエンブリオ、セレンはワインを。
ロロイナと俺は冷酒。
エミルとアルは両方に手を出していた。
エンブリオは見た目に反して、グラスからちびちびと飲み、つまみのほうに舌鼓を打っていた。
ナタリアは飲んでは俺にワインを注がせ、飲んでは笑いながら絡んできた。
「なゆたー、すきーあいしてるー」
「はいはい俺も俺も」
酒でも幼児化すんのかよ。今後なるべき控えさせるか。
エミル、セレンは自分のペースでゆっくりと酒を楽しんでいた。
ロロイナは冷酒のおちょこ一杯で顔が真っ赤になっていた。
二杯目は一応注いでいるものの、水を主に口にしていた。
俺はナタリアに絡まれてるので、それをいなしながら冷酒を飲んでいた。
そろそろ三合目ぐらい。まあ、この程度なら。
一番驚いたのは、アルが酒豪、ないしざるだった。
アル一人でワインと冷酒それぞれ1本空いていたけどまったく平然としていた。
「そうだ、ロロイナ。この戦いが終わったら結婚しよう」
アル以外の全員が酒を噴出した。
「お前やっぱ酔ってるな!?」
「ていうかそういうの知ってます? 死亡フラグっていうのですよ!?」
俺とセレンが突っ込みを入れた。
ナタリアはただただ笑っていた。そして「いいなー結婚かー。じゃあ勝たないとねー」とか適当な事言っている。
エンブリオとエミルは黙々とワインとつまみを口にしていた。
「僕は酔った勢いでこんな事言わないよ。雰囲気には酔ってるかもしれないけどね。あとその死亡フラグっていうの、客観的に見たらそうかもね。昔の僕でも同じ事を思ったよ」
アルはただでさえ酒で顔が真っ赤になってるロロイナを真っ直ぐ見つめ、左手を添えた。
「物語とかよくある光景かもしれないけど、今の僕には『どうしてこんなタイミングで』って気持ちがわかる。僕はロロイナに婚約指輪を渡した。結婚する意思を伝えた。けど、いつするかは伝えてない。そんな中で『万が一死ぬかもしれない』って状況になったら、何も伝えない訳にはいかない。言ったから必ず死ぬわけでもない、でも言わないまま僕が死んだら、ロロイナはこの指輪が人生の重荷になる」
「お、重荷じゃない! アルが、もし、もし死んじゃっても、私はずっとこの指輪を大事にする!!」
「ありがとう、ロロイナ。そう言ってくれると嬉しい。だからね、これはお互い覚悟を決める話なんだよ。僕は生きて戦いを終えたらロロイナと結婚する。ロロイナも僕が生きて帰ってこれたら結婚する。もし僕が死んだら、僕を忘れてくれるか、それとも思い続けてくれるのか。それらを決めるのは僕が死んでからじゃ、遅いんだよ」
ほんとこいつ聖人。
え、なにその考え方。
俺が死んだら、とか考えた事なかった。
生きるか、死ぬか。それだけの浅い考えしかなかった。
そっか。俺が死んだら、ナタリアは悲しむって言ってたな。
そういう誰かの思いを、俺は蔑ろにしすぎていた。
「私はアルと結婚する。だから、絶対に帰ってきて。でももしもがあっても、私は一生アルの婚約者でいる。アル以外を愛せるわけがない」
「おめでとう、アル、ロロイナ。あと少なくても1500年は生きるじじいが聞き届けたぞ」
「おめでとう。祝福する」
「おめでとうございますアル様! ロロイナ様! 私めセレンはさらに一層誠心誠意込めて尽くさせていただきます!!」
「おめでとう。で、ナユタは私には」
「うっせえ酔っ払いエルフ、シラフの時に改めてな? ともかくおめでとう二人とも。今日はこのまま二人の結婚前夜祭だ。酒のストック全部出す、料理もいくらでも作ってやる。明日? 二日酔いでぐだるなら明日も休みだ。こんなめでたい日に明日の事考える場合じゃないねえ!!」
結局、俺とアル以外は二日酔いでダウンしたので、決戦はまた翌日となった。
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