休息
今日に限っては、戦の話は一切しなかった。
アルはロロイナと一緒に「テレポート」でどこかへ出かけて行った。
残されたセレンは、特に変わった様子もなく普段どおりだった
「私はアル様に尽くす身ですからねー。アル様がロロイナ様と婚約したのであれば、お二人が快適に過ごせるよう努めるだけですよー」
未だにセレンが何を考えてるかわからん。
わからんが、アルやロロイナに対し恨めしい感情を抱いていないのだけはわかったので、まあそれはそれで。
エンブリオは小さな畑の手入れをしていた。
「最近、きちんと見てやれなかったらのう。雑草が目立つ。趣味で耕した畑じゃが、このままにしておけぬわい」
英雄として名高いドワーフの本気農耕はこの村の一流農家にも劣らなかった。
エミルはというと
「こう、もうちょっとで閃きそうな気がする。すっごいスペルを」
いや休めって言ってるのに、なんで修行みたいな事してんだよ。
「料理屋の仕事もないし戦いもしない。こんな一番暇な日だからだよ。ボクは天才で完璧だから、心に引っかかるところは全部解消しないとイライラする」
さいですか。まあ、休みの過ごし方なんてお好きにどうぞ。
俺とナタリアは、村からちょっとだけ馬車を飛ばせばすぐに辿りつく湖に来ていた。
湖の水は綺麗で、周囲の草原も程よく柔らかい芝のように生えていた。
珍しくナタリアが弁当を用意してくれていたので、軽くピクニックに来ていたのだ。
俺はナタリアの膝に頭を預け、二人でその綺麗な景色のただぼーっと眺めていた。
「なんか変な感じ。村から見れば遠い場所の話だけど、確実に魔王の軍が攻めているってのにまるで平和って感じがする」
「まあ事実でもあるしなあ。結局は攻めてこられてないから今までどおりの平和、平穏ってやつだ」
「でも、万が一でもこの平和が壊されてしまうのよね」
「万が一にな。それは俺がさせねえ」
「そっか」
ナタリアは優しく俺の頭を撫でる。
くすぐったい感触だが、それ以上に心地よかった。
キスとか抱きしめるとか、そういう強い刺激とは違う、安心できる快感だった。
「ナユタの髪って不思議よね。真っ白で凄く綺麗。エミルの銀髪とは違って、おじいちゃんみたいな色なのに」
「俺の一族がそういう体質なんだよ。理由は、まあ色々ある」
「一族? この国にナユタみたいな髪の一族って聞いた事ないけど」
「そりゃ俺、ヒガシ出身だし」
「……え?」
「国籍は家出してこの国でギルド登録した時ついでにブレンド連邦王国に変えたけど」
「しれっとナユタの隠された出自、みたいなの話さないでよ! ちょっと驚いたじゃない」
「あえて話す気はないけど、隠す気もないからな。まあナタリアにはいつか話さないといけねえかなって思ってたんだが」
「まあ、ナユタが何処で生まれてどんな一族か、なんて今更どうでもいいけどね。ちょっと驚いたけど、結局ナユタは私の恋人、それだけ」
「そういう事」
あとはただ無言でこの綺麗な景色を二人で楽しむ。
ナタリアの優しい頭の撫でと、湖と草原の心落ち着く匂いを楽しんだ。
「愛してるわ」
「ああ、俺も。で、なんで急にそんな事言う」
「色々考えたの。何をどうすれば正しいのかって。でも、全部正解だし、不正解」
「……やめろ。今日はただ休む日だ。戦いの話はやめろ」
「ううん。戦いから切り離された今だからしか言えないと思うの。また明日から、魔王の軍と戦うって気持ちになったらきっと言えないから」
「俺は、今日だろうが明日だろうが、代案がないなら意見は変えねえぞ」
「うん、知ってる。だから……、だからこそ、今日じゃないとダメだと思ったの」
ナタリアの手は止まらず、ずっと俺の頭を撫で続ける。
「きっと昨日までは、『ナユタが死んだら自分が悲しい』そんな気持ちばかり。でも、今は『愛してるナユタの手助けがしたい』って思ってる。自分のための意見じゃない。愛する人を尊重したいという気持ち」
「お前が賛成したら、決戦が決定するぞ」
「いいよ。ナユタが死なないようにって考えても、今の私たちには何も代案がないもの。ならナユタを信じるしかないでしょ」
「その言葉、明日も同じように言ってくれると助かる。無駄な時間は使いたくねえ」
「もしエミルが代案をだしたら、場合によっては心変わりしてエミル側に付くかも。けど、きっと良い方向に進んでいくと私は思うわ」
「その自信どっから来んだよ」
「エミルはきちんと大人よ。自分の気持ちを優先しすぎてるってもう気づいているはず。私が気づくくらいだもの。だから、代わりの案が出せないなら自分たちでなんとかするしかないって考えるはずよ」
これが女心ってやつか?
全然理解できねえ。
自分の気持ち、思い、考えが一番優先すべきだろ。
押し殺してまでなんで俺の意見を尊重しようとするのか。
「ナユタには頑張ってもらう。けどナユタ頼りにはしない。私の剣に誓うわ」
「うん、期待してる」
「はい、私から切り出しておいてなんだけど、戦いの話はおしまい!」
「んじゃ、飯にするか。ナタリアの弁当、期待してるぜ?」
「あまり過度なのはやめてね。料理で店開ける人にそう言われると緊張する」
再びゆっくりとした時間をナタリアと二人で過ごした。
「ねえ、私も膝枕してもらいたい」
「却下。お前発情すると怖えから」
男の膝枕って、つまり相手に自分の股間を晒すようなもんだろ。
いや性別逆でも一緒か?
ともかく、俺はナタリアの股間付近に頭乗せても冷静でいられる。
だがナタリアが冷静のまま、という信用は正直ない。
「ケチ」
「うっせえ色欲エルフ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます