消耗戦

 段取りが決まれば、まず俺とアルで『テレポート』を使ってもらい、現地に向かう。

 俺は広範囲の『索敵』を行う。

 まだ相手は攻めてくる気配はないが、確かに大軍が拠点を構え待機しているようだった。


 ただし、付近に斥候が数体確認できたのですばやく始末した。

 これで斥候が帰ってこないとわかれば、こちらも相応に迎え撃つつもりであると相手に伝わるだろう。


「ちょっと挨拶してくる」


「え? ちょっとナユタ!?」


「俺は俺で自力でナナシー村に帰還できるスキルがある。お前らは戻ってろ」


「……無理するなとは言わないけど、無茶はしないでね? 君だって、君1人の命じゃないんだ」


「当たり前だ」


 俺は『加速』を重ね、相手の拠点へ攻める。





 敵の集団と接触する前に『オールエンチャント』で予め自身を強化する。

 『索敵』と目視で敵を確認次第、『マルチウェポン』で投擲武器を引き出し投げつける。

 手応えは十分だ。

 この程度なら、この小隊ぐらいは問題ない。

 小太刀とショートソードを引き出し、二刀流で残りの十数体を切り刻む。


 『オールエンチャント』の反動があるので、あまり無理はしない。

 『索敵』で検知できるのはあと四小隊ぐらいか。


 そのまま『加速』でそれぞれの小隊に接近し全滅させた。

 念のため『索敵』を行使しし、相手の数を確認する。


 ……こりゃ厳しい。

 敵は少なく見積もって五桁はいる。

 そして先のような雑魚の魔族だけとは限らない。

 少なくてもこの数を統制できるのはかなりの大物だろう。


 『ワープ』


 俺はナナシー村に戻った。

 そろそろ『オールエンチャント』による肉体への反動が来るからだ。




「以上、俺が敵陣視察の結果、これはかなりの長期戦にせざる得ねえ。そもそも物量が違いすぎる」


「ナユタ、本当に危ない事するのやめてよ……」


「あれが最善手だ。単独で敵陣に接近してそのまま帰還できるのは俺しかいねえ」


「しかしじゃ。このままナユタ任せにするわけにはいかぬまいて。ナユタの体力が持たない」


「そこなんだよなあ。俺なら『加速』で一気に突っ込めるけど、四人で足並み揃えてたら、近づく頃には日が暮れちまう」


「馬車を使えばいいんじゃない? ナユタの馬車なら一気に全員で突撃できるわ」


「……けど、アルが」


「あ、僕は大丈夫。酔うのはロロイナだから」


 なるほど。アルは大丈夫でもロロイナが耐えられないから止めさせられたのか。納得。


「なるほど。てことで、提案者のナタリア。お前は大丈夫か?」


「耐えて見せるわ。そして前衛として、ナユタの背中を守る。いえ、ナユタよりも派手に戦わせて貰うわ」


「僕が撤退時の際、その地点を覚えれば改めて『テレポート』で移動できるし、少しずつ敵の拠点まで接近していこう」


 なんて、楽観的な戦法で対峙する事にした。




 そして一週間目。


「ナタリアぼけっとすんな!! あと無駄に攻撃すんな一撃で仕留めろ!!」


「やってるわよ! けど私の剣じゃ軽すぎて……!!」


「エンブリオも無駄にダメージ食らうな! アルのMPが尽きちまうぞ!!」


「戦士に対して、攻撃を食らうな、か。スパルタじゃのう!!」


 全員に『フルエンチャント』をかけ、国宝級の武器を持ってしても苦戦していた。


「そういうナユタも手数減ってない!? ばてちゃった?」


「流石のナユタも体力は人並み程度ってことろかのう」


「うっせえ!」


 最初は順調だった。

 だが本陣の周辺はただの見張り程度で、奥に進めば進むほど手強くなってきた。


 息も絶え絶えに、精鋭部隊の小隊を撃破する。


「アル、この場を記憶して『テレポート』で戻れ。俺はもうちょい減らしてくる」


「了解。気をつけてね」


 『索敵』で他の小隊を見つけ『加速』で接近し、『オールエンチャント』と『スキルブースト』で全滅させ、すぐさま『ワープ』で帰還した。




「正直手詰まり感はある」


「けど、ナユタの『索敵』からして順調に減ってるのでしょ?」


「このペースだとあと一ヶ月はかかるぞ。しかも今日の敵より強い奴ばかりの可能性がある」


「それに援軍が来ないとも限らんしの。あれだけの大軍が補給なしで維持しているとは思えぬ。物資補給のラインで、人員追加の可能性も高い」


「今度こそ、ボクの出番」


「いやだから――」


「お疲れのところ悪いけれど、ナユタ、ちょっと付き合って」




 村の外の、何もない空き地に連れ出された。


「『グラビティ』」


 広大な大地が重力に逆らえずぽっかりと沈んだ。


「『ラース・オブ・ゴッド』」


 広範囲に雷撃が走り、沈んだ大地諸共ごなごなとなった。


「これが今のボク、魔法師としての実力。当然一部分。『賢者』は伊達じゃない」


「……。マジ?」


「MP減少による行動制限まで、この程度のスペルなら三十から四十回は使用できる。後衛のアルとボクでマジックポーションを持てるだけ携帯できればさらに長期戦ができる」


「危険なんだぞ」


「知ってる。けどボクも<英雄>だ。一緒に戦う覚悟ぐらいはしている」


「……、そうか。じゃあ、期待してる」


「任せて」




 エミルを戦線に加えてから、先の1週間はなんだったんだってぐらいに順調に事が進んだ。

 まず先手でエミルの広範囲スペルで大ダメージを与え、消耗した相手を手当たり次第屠る。


 一日十から二十小隊を全滅させ、今に至る。

 『索敵』ではあとは拠点だけ、というところか。


 ……気になったのは、ここまで露骨に相手を消耗させているのに、一切相手に動きがない事か。

 もちろん念のために毎日ククリス村の哨戒も怠っては居ない。


 作戦か、罠か、それとも別の意図で誘っているのか。


 いずれにせよ、決戦の日は近い。

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