魔神のお墨付き
以前、ハーヴェイさんと手合わせをした時の話をしたいと思う。
理由は的確な指摘を忘れないこと、そして自分の誤った認識を改める事、だ。
「英雄」の恩恵が薄れていると感じ、いざとなったら「白狐」に頼らなければと思い込んでいた頃の話だ。
「ふむ、概ねわかった」
ハーヴェイさんと「白狐」状態で、かつ霊力に耐えられず破壊されるのを覚悟で「マルチウェポン」から武器を取り出し斬り合う。
すべていなされ、武器を交えれば俺の武器が壊され、それを何度も繰り返す。
「確認したい。ナユタ殿は『霊力』を使いこなせるようになり、どのくらい経つ?」
「大体三ヶ月ぐらい前っすね。個人的には使いこなせてるとは思ってないんすけど」
「普段の戦いに違和感を覚えたのは?」
「先月、かなあ」
「……結論から言うと『神位の恩恵』は必要か?」
「いやそりゃ、『白狐』になってると色々影響があるし。俺自身もだけど、周囲とかに。てなれば『英雄』がないと困るかなって」
灰の村で師匠と修行し、お互いの『霊力』の所為で魔物が活性化した事例がある。
今回もだが、あまり安易に使うべきではないと俺は思っている。
「そもそもだ、『白狐』という特殊な状態とはいえ、たかが二十年も生きていない人間が『神の領域』に至るのがまず前提としておかしいのだよ。ナユタ殿が持ついくつかの能力は後付けでしかないと考えてる」
「いや言っている意味が――」
「『神位』があるから、その特殊なスキル……『マルチウェポン』があるから、『霊力』が使えるから、『白狐』になれるから。そんなものすべて後付けにすぎない。全て『ナユタ殿が強い理由』でしかない。生まれてたった十数年、ましてや『白狐』に至って数ヶ月でこの領域に至るのであれば、もし強さを求めるのであれば『自然と次の段階に進む』 そして、ナユタ殿は自身の人生を今後どう歩みたい?」
なるほど、これは俺のスランプ克服ではなく、もっと長期的な視点でのアドバイスだ。
「白狐」状態の強さは魅力的だ。『簡単に強くなれる』 そして同時に慣れ親しんだ「英雄」の恩恵が薄れていると感じている。
その落差に、つい「白狐」に甘えてしまうのではという自責の念があるのだ。
「……ありがと。俺は、当分このままでいいわ」
「そうか。ふふっ、本当にナユタ殿は小僧とは思えんよ」
強さを求める理由も、戦う必要もない。
まあ個人的な趣味としては人並みにあるけれど、人間を辞める意味がない。
そういう意味で『英雄』が機能しないのはむしろ喜ばしいのではないか?
ただ俺は、普通の人間でありたい。
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