意趣返し
さて、最近悩みがある。
それは師匠から貰った刀の事だ。
元から名前が無いと師匠は言うし、好きに名付けろとも言ってくれた。
だがこれをマルチウェポンに収納した事で厄介な事がある。
そもそも、この刀を引き出すためのイメージがし辛い。
本当に追い詰められた時に「一番強い刀」となれば即出てくるだろう。
だが俺のマルチウェポンの強みは「何となく今一番必要な付与をされている武器を持ち出す」事だ。
今まで作ってきた武器に名前を付けなかった事、そして付与によって多数の武器を作成したのもこの理由だ。
例えば「対魔」「剣」「軽い」と適当に思えばそれに適した武器が手元に来る。
だが「軽い」を意識しないと両手剣やそれこそ包丁を取り出してしまう。
なので、条件付けという意味では「名前」と言うのは強く、そして縛る。
昔一度だけ試した「名前を付けた物」はその名だけで手元に呼び寄せられる。
「正宗」
その名を思い浮かべると、普段使っている料理包丁が手元に来る。
料理用の武器? はいくつかあるが、「刺身」「包丁」のように条件付けをしないと任意の物が取り出せない。
仮説として、自身で名付けたか、元々ある名を頭に浮かべれば必要な時に即手元に手繰り寄せられるのでは?
そして本題、いざその名前を付けた際に一番頼りたいのは師匠から貰った刀だ。
どう名付けようが良いと言うが、簡単に名を付けるわけにもいかないだろ。
「ちょっと! ナユタ!!」
「んあ? どうしたナタリア。顔が青いぞ」
「その刀出しっぱなしにして村の人が大丈夫じゃないでしょ! 霊力、だったかしら。それでみんな体調崩してるわよ!!」
「あ、え? 今何時?」
「ナユタの店のランチライムが終わってから一時間! さっさとしまって!!」
「マジか。悪い悪い」
「もう……、つわりかと思ったわよ」
「待て? つわりって?」
「冗談、冗談!! 私がナユタ以外とそういう事するわけないじゃない!!」
「性欲に負けて人間界に落ちたエルフは――」
「私が返り討ちにあったとしても、私がナユタを殺して良いなら言葉を続けて?」
「さーせん」
ナタリアの目が怖い。
本気でなかったとは言えあの魔神より怖い。
「んで? そんな長い時間ずっと自室で刀と見つめあって、どうしたの?」
「師匠から貰ったやつ、名前どうしようかなって」
「ああー、あの『触る事が出来るだけで人間辞めてる』みたいな化け物ねえ」
「おい、言い方。俺は、一応まだ人間」
「というか、自分の武器に名前付けようと思うんだ。今まで頑なに拒んでたでしょ」
「それは『マルチウェポン』の……、まあいいや。一応俺の一番の切り札だ。名前ぐらいやってもいいだろ」
「じゃあ、私が付けてあげようか? 悩むぐらいなら、誰かのアイデアも聞きなさいって」
「……まあ却下するけど、聞いてやる」
「『神威』」
神位と聞えた。
けれどナタリアは笑顔で
「音は同じだけど、『神を威圧する』って意味で。ナユタは神様なんかよりずっと強いんだぞってね!」
俺の恋人は、本当に素敵だ。
神に挑めるほどの力をつけた俺を「神を威圧する」なんて後押しをしてくれる。
心強い。
俺は、色々失っているけれどまだ戦える。
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