義務
「とても怒られた……」
エミルが顔を青くしてうちに帰ってきた。
昨日の晩にギルドから珍しくエミル宛に連絡があり、それを聞いた顔も十分青かったのだが。
「どうした? なんかあったか?」
「……税金払い忘れてた」
ああー、冒険者駆け出しあるあるなー。
冒険者って基本色んなところふらつくから、自ら納めに行かないと行けない。
んで、すっかり収める時期を忘れてギルドに滅茶苦茶怒られるのが冒険者の半数ぐらいはあるある話、らしい。
ナタリアもエンブリオも経験があるらしく、よく「税金納めた?」と聞かれたものだ。
「しかも想像以上に高い。おい貴族め、こんなのおかしいだろ」
「いやお前もまだ一応貴族だからな?」
「いやいや、むしろボクだって徴税をし管理をする立場だから。……忘れてたのは落ち度だけど。それでも延滞なしなのに、一般的な納税の3倍はあったよ!? ボクが家を出てから何があった!」
「いや冒険者の収める税金って結構高くなるんだぞ。ましてや、<英雄>としてクエストを受けてるし、この店の収入もある。ならお前は貴族の時よりももっと金が手に入ってるわけだ」
「でも、三倍は。特に保険料がおかしい」
「冒険者はクエストで大怪我、それこそ一生の傷とか手足欠損とか、そういう自体になるわけだ。その場合の生活保障もされてるんで、そりゃあ高くなるって」
「……納得いかない」
「何、払えなかったの? 貸そうか?」
「いや、それは大丈夫。ナユタの言うとおりボクの懐はそこそこ暖かいから、この程度は……」
「じゃあ何が問題なんだ?」
「ナユタが、いえみんなして納税忘れがない事。あ、忘れてたーってしそうなのに、なんでボクだけ……!」
「あー、俺は十五~十六歳の時、上位冒険者の納税の五百年分前もって払ってるから」
「……は?」
「エミルの言うとおり、忘れてたーってする可能性があるんで、まとめて払っておいたんだよ。俺もナタリアもエンブリオも。寿命分ぐらいはな。アル達は知らんが、元勇者ってのと、なんだかんだしっかりしてるから大丈夫だったんじゃない?」
「いやいやいや。それってどれだけの金額になるのさ!」
「んー。はした金? 普通のクエストは徴税の対象だけど、ギルドクエストとかキングダムクエストは無税扱いだからさ。気づくと報酬だけ増えていくわけだ」
「ちなみに、ナユタって今どれぐらいのお金があるか聞いてもいい?」
「え? 知らん。数えた事がない。兆の桁まで行くと数えるほうが億劫だろ?」
「個人が兆超え? 国動かせる額だよ?」
「土地も家も買ったし、稀のクエスト報酬があるしむしろ減るより増えてるんだよなあ」
「えー、このままだずっとお金がナユタの懐に溜まるの? 経済止まるんだけど」
「それな。だからちょっと豪遊? したいけど、なんも思いつかなくてさ」
「額が額だから、億ぐらい使っても痛くもなさそう」
「この国を買った」
「……ん?」
「俺ってさ、陣は作れても展開する魔力がなかったけどさ。陣を霊力用に布陣したら……。大規模かつ恒常的な陣を張れるわけだ。なんで、この国の土地を全部買った。自分の土地ならどんな陣を使用しても俺の土地じゃん?」
「馬鹿なの? それともすごく馬鹿なの? 何がしたいの?」
「一つはモンスターのデバフ用。昔は魔力多い奴を国中かき集めても不足してたんだけど、俺の霊力なら賄える」
「なんでこの場にボクしかいないの? ツッコミ役少なすぎない?」
「は? ひっぱたくぞ。俺がボケで言ってると思ってんのか。フルエンチャントに霊力込めてしっぺすんぞ」
「はいごめんなさい。ツッコミ役不足の理由はナユタがボケじゃなくて本気だからなんだけど。えっと、続けて?」
「強制奴隷紋をもっと厳しくしようかと。いや違うな、奴隷商人絶対殺すみたいな陣ってどうすればいいと思う?」
「……人の悪意って、ナユタは感じ取れる?」
「殺気とか、そういうのならそこそこ」
「もし出きるなら『目前の人間を人間ではなく商品』みたいなのは?」
「俺には無理……かな。白狐でも感情の機敏みたいなのはあまり影響ないっぽい」
「ではボクがその陣の形成に力を貸そう。ボクならわかるよ、そういう、得意だから。なので対象を『奴隷にされる側』はそのまま、『抜け道で非合法を行おう』という感情を持ったものを対象にすればいい」
霊力と魔力を同時に使う陣が俺に形成できるか。
そしてエミルの提示した「人の感情」を定義したものが、果たして実現するのか――
「出来なくて元々。出来たら、みんな幸せ。試す価値はあるでしょ?」
「そう……か。そうだな」
「もしボクが絶命しても、この陣のためボクの子孫を残す必要があるね? どう? 三人ぐらいボクの子供作らない?」
「あー、今月中には完成しねえとなあ」
「……人間辞めたんだし、ぽっちゃりエルフ以外にそういう関係持ってもいいじゃないか」
「はっきり言うぞ。まだ俺は童貞だばーか! あと何百年このままかわかんねえのにお前との子供とか考えられんわばーか!」
「え、馬鹿はどっち?」
「俺だよ!!」
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