一宿一飯の恩義
さすが魔王というべきか、ガーネットさんは昨日あれだけ酒を呑んでおいて翌朝にはケロっとしていた。
むしろ肌がつやつやしてるぐらいだ。
……見た目十五歳前後だし、若返ったという表現はおかしいのだけれど、少しだけ生き生きとしている。
一方魔神ハーヴェイさんは頭を抱えている。
体調が悪いというよりは、少し表情が暗いというか。
「我が主を我が手で……」
「責任は取ってもらうぞよ、ハーヴェイ」
あ、そういう。
簡単な朝食を用意したがガーネットさんは美味しそうに食べてくれた。
ハーヴェイさんも表情こそ変わらないものの、淡々と口に運んでくれた。
「してナユタ殿、時間はあるか?」
「今日は店の定休日だし一日暇だぞ」
「そうか。この村を出る前に、私から礼として一つ手合わせを願いたい」
「……礼に、手合わせ。ねえ」
「神格が上がり、元の種族としての力の使い方が正しく使用できないのではないかな?」
「神格って言葉ははじめて聞いたけど、確かに元の『神位』の恩恵がうまく働かないな、とは思ってる」
「私も『魔神化』の直後はそれで悩んだものだ。一朝一夕で身につくものではないだろうが、『魔族』から『魔神』に神格を上げた先輩としてできる限りの事をしよう」
「一応、俺はまだハーヴェイさんたちの敵だぞ?」
「だが今は違う。次の戦まで……。ふむ、まずそこも軽く説明しようか」
先日の戦で魔王軍は戦争を一時休戦する事に決めたこと。
戦争の先導したとして参謀役が斬首刑になったこと。
今後数千年ぐらいは戦をするつもりは無いこと。
「それ、言っていいこと?」
「言ってそちらが信用し納得してくれるなら、休戦調停でもなんでも結ぶさ。だが我々の戦争は『そういうルールのないもの』だ。そちら側で一番の……あの『化け狐』を除けばナユタ殿が一番の脅威であるし、信じてくれるならば『魔族側』も安心できるというものだ」
確かに同じ人間が行う、領地やら利権目的の戦争と『人間』と『魔族』の戦争は訳が違う。
長い年月が積み重なり「相容れぬ滅ぼすべき種族」のような認識になっているからだ。
「まあ、さておき。話を戻すが『神位』が使えない、もしくは効果が薄れているという認識でよいか?」
「ああ。これって、俺が人間を辞めはじめたからと思ってる。師匠もそれを懸念していた」
「それは誤解だ。そもそも『神位』とは『神に至る権利』の象徴だ。逆に言えば『神位』を持たない者はまず『神格』を上げる事ができない」
「……ちょっと待ってくれ。えっと、俺の認識だと『神位』は『神から与えられた力』なんだが」
「それが今の、いや遥か昔から『そう認識させていた』事だ。しかし、それは嘘なのだよ。神を増やさないための、神が誤魔化すための嘘だ」
「待って、待ってくれ。俺の師匠は『神位』は持ってないと言っていた」
「ああ、あの『化け狐』は存在が最初から『神に近しい』だけで、神にはなれない。『神位』の有無は、それだけ重要な素質なのだ」
「……俺が神に至れるかは置いといて『神位』が『神格』っての? それの所為で恩恵が薄れていると感じているのは勘違いということか?」
「単純な話だ。『神格』を上げない状態とナユタ殿の『白狐』状態、どちらが自分の中で強い力を発揮できると思う?」
「それは『白狐』の時だな。まったくない魔力の代わりに霊力が使えるだけで全然違う」
「その認識の差が『神位』を使いこなせていない、恩恵が薄いと誤認する原因だ。そして、ここが一番重要でな」
ハーヴェイさんは剣を引き出し、本気で切りつけてきた。
咄嗟に『白狐』になり霊力で軽減しなければ上半身と下半身がなき分かれていた。
「その神格を上げた常態、『白狐』でも『神位』を使いこなせ。通常時も、神格を上げた状態でも、ナユタ殿はまだ強くなれる」
「あの、えっと、なんでいきなり『世界最強決定戦』みたいなの始めてるのかしら?」
「ワシもわからん」
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