種明かし、そして

「よっ、リザリー。ジャイアントワーウルフ討伐終わったぜ」


「ちょっとナユタ様、ちょっと自重しましょ!?」


 『ワープ』でギルドに移動し、たまたまカウンターに居たリザリーに声をかけたが何故か怒られた。


「(ご自身が勇者なのを隠して欲しいと言ったのは、ナユタ様ですよね? なんで当たり前のように勇者のスキル使ってるんですか?)」


「(わりい、確かにそうだな。ちょっとハイになってた)」


 先の戦いでテンション高まってしまい、色々考慮すべきことを失念していた。

 いっけねえ。これだから「隠す気ねえ」だと「またやらかした」だのエンブリオにねちねち言われてるんだよなあ。


「ナユタ様、ともかく奥の部屋へどうぞ」


 お互い錯乱気味だったが、先に平静を戻したリザリーがギルドの奥へと案内してくれた。




「確かに、このワーウルフの頭はジャイアントワーウルフであると鑑定の結果がでました。ありがとうございます、悩みの種であったギルドクエスト達成となります」


「報酬の件だけど、復興支援資金も大事だけど、まだこいつの瘴気で活性化したモンスターがまだいるから出来れば冒険者のクエストとして発行して欲しい」


「その点はご安心ください。ジャイアントワーウルフが討伐された時点で、危険度CからB、稀にAのギルドクエストとして討伐クエストを発行する予定でした。ランクを上げることにより報酬が増えますので、依頼者は増えるかと存じます」


「助かる。まずは人が足を運んでくれねえと復興もクソもねえからなあ」


 そういう意味で、クエスト攻略のために冒険者がナナシー村を拠点としてくれると大変助かる。

 女将の宿なら誰も不満はないだろうし、棟梁のように外需がない分、内需のために腕を上げ続けた職人が数々いる村だ。

 なまじ人が多いだけのサザー街より良品が揃っている。

 それを冒険者に実感してもらい、噂を流せば村の復興の一役になるだろう。




「ところでナユタ様。『どうやって単独でギルドクエストを攻略できたか』お尋ねしても?」


「答えは『いやだね、なんでだよ』」


 ギルドクエストだから、ギルドはその達成方法を聞く権利はある。

 だが冒険者の俺にそれを説明する義務はない。


「言い方を変えます。『いくら英雄で勇者クラス所持でもこのクエストを単独、この短期間でクリアできたのかをギルドが把握していないと、情報規制ができません』」


 なるほど、悪くない言い方だ。

 俺は『英雄』の神位と勇者のクラスを否応なく得てしまった事をギルドに口止めさせている。


「失礼な言い方かもしれまんせんが、このギルドクエストはナユタ様たちのような英雄には期待しておりませんでした」


 勇者パーティから脱退したという話はバカ勇者がしつこく補充のメンバーを勧誘している時にギルド側は察していたらしい。

 その後、英雄三人が冒険者らしい動きをしていないので、引退してしまったと考えていたそうだ。


 なので、あくまでごく普通の一般的な冒険者向けのギルドクエストとして最初は発行していたそうだ。

 しかし腕に覚えのある冒険者が束になっても道中でリタイアするし、あまりに進展がなく大軍で無理に進行し、やっとジャイアントワーウルフの住みかであろう場所の目星がついたそうだ。

 当然ジャイアントワーウルフが本当にそこにいたと確認できるほど洞窟の奥には辿りつけず撤退を余儀無くされたとか。


 つまり、この街を拠点とする冒険者にとって「ジャイアントワーウルフ討伐」のクエストは達成不可とし二ヶ月も放置され、俺の所に来てしまったのだ。


 そんなクエストをソロ討伐、しかも受注後二日でクリア報告なんてしてしまったら俺への一般的な評価『勇者パーティで活躍する英雄的な前衛』から俺自身への『英雄像』が作られてしまう可能性もある。

 そこから辿られ、やっと神位『英雄』としての噂が消えかけてる現在の状況をまた掘り返されてしまいかねない。


「話すからには相応の対価を期待する。これ、俺のパーティメンバーにも絶対話さないって言ってるぐらいだからな?」


「承知しました」




 俺の奥の手『スキルブースト』

 これはクラス勇者が一番最初に覚えるスキルだ。

 効果は「一定時間、所持するスキルをレベル最大となる。継続時間は勇者のレベルに対し一秒」というものだ。


 『英雄』の効果で通常行動がスキルのように扱われる、しかしスキルではない。

 しかし勇者のスキル『スキルブースト』の効果の対象となる矛盾が発生していたが、理由はどうあれ『英雄』の恩恵の弱点だったスキル錬度の取得によるレベルアップ、及び上位スキルの行使が行えないという部分が『スキルブースト』で解消、むしろ『全てのスキルを極めている状態』になるのだ。


 今の俺のクラス勇者のレベルは47なので、この状態を維持できるのは四十七秒だ。

 一分にも満たない時間で最悪の状況を打破しえるまさに奥の手だ。


「ていうか、ギルドのほうが勇者のクラスやスキル詳しいだろ。この事に気づいた奴いねえの?」


「いえ、その、『出来るかもしれないが出来るわけない』という淡い期待がありまして」


「ま、実際出来ちゃってるんで。話したからには情報規制、期待してるぞ?」


「お約束は出来かねます。『ワープ』で直接ギルドにいらっしゃった時点で、ギルドがどう言おうと噂は立ちます」


「それは、悪かった。そだな、俺が悪い」


「ただし、出来る限りはします。実は英雄三人でクリアしたと嘘を教える……は逆効果ですね。二人とも街に滞在しているせいか住人に囲まれサインとか求められてましたし」


「マジか。エミルのお守りは意外と大変そうなんだな。あとで飯作ってやるか」


 正直この街の飯はあまり美味くない。俺が作る飯のほうがマシ。女将の飯が最強。

 でもデブエルフ候補が調子に乗って大食いしたら、ダイエットの邪魔になるか?

 ま、自己責任で。

 いくらデブってもナタリアは見捨てないよ?


「この件については上席を含め、可能な限りでナユタ様のご要望に応えられる様努めます」


「りょーかい。じゃ、あとの手続きは任せるわ。俺の大事なパーティメンバーをこのまま放置はできねえし」


「<英雄>、本当に結成なされたのですね」


「まあな。けど期待すんな? 俺含めて英雄は引退気味だし、『賢者』は表に出す気はねえ」


 どうせギルド内でエミルの『賢者』は伝わってるだろうから隠さない。


「そうですね。はい、期待はしません、今回のように」


 しかしリザリーは無垢な笑顔で


「けれど<英雄>の良心が誰かを救ってくれると私は信じてますよ」


 はい、そうですか。やめてくれよ、俺は美人に弱いんだから。

 本当にどうしようもない時は、仕方ない、なんとかしてやるか。

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