ナユタとアル

 勇者……、いや元勇者のアルたちを迎えて半月程経った。


 意外と素のアルとは気が合った。

 いつも自虐的に臆病だ、なんていうけれど、自分の主張は曲げない主義だった。

 昔の演技をしていた頃より好感が持てる。


「ナユタ! いくら美味しくてもこの盛り付けはセンスがなさ過ぎる! 売り物としての自覚あるの!?」


「うっせえよ、こういう荒っぽい安飯は適当で雑なほうがいいんだよ!!」


 俺と同じく料理にハマったアルは常々俺と意見をぶつけ合っている。


「じゃあ勝負しよう。まだ僕の料理の腕はナユタには敵わないけど、これだけははっきり言えるね。見た目だけなら僕のほうが美味しそうな料理を作れるってね!」


「その喧嘩買った。んで審査員はエミルとロロイナでいいのか?」


「ちょっとなんで私を除いたの!?」


「それは当然。セレンは出された料理がどうであれアルに票を入れる。なので無効票」


「エミルさんだって、どうせナユタを入れるんでしょ?」


「ボクはナユタの良き理解者だ。そしてナユタもボクの良き理解者だ。そういう不正はしないという信頼がある」


「……まあ、これは日頃の行いだよね。ごめんね、ご馳走はするけど審査員は辞退してね」


「アルがそういうなら……」


 渋々了承を得られ、それぞれ料理をする。

 俺は一階の食堂で、アルは2階のリビングで。

 環境については確かに食堂のほうが広いが、あくまで大量に作るのに向いているだけであって、三人分の料理を作るのにハンデはない。

 調理器具も同じものを使っているし、アルにとっては練習がてらリビングのキッチンを使用しているのでむしろ都合がいいだろう。




「ほれ、できたぞ」


「はいお待たせ」


 違う料理を作ってしまっては勝負にならないから、同じ料理を作った。

 一番シンプルにペペロンチーノだ。

 こんなのただパスタを茹でて冷水でぬめり気を取った後、フライパンでニンニクを炒り香りつけたオリーブオイルを和えるだけだろ? 強いて言えばオリーブオイルを乳化させて味わいを深くするぐらいか。




「優勝、アル」


 淡々とエミルが俺の敗北を言い渡した。


「おいちんちくりん。食う前になんで決めてんだ」


「ナユタ、この勝負の前提条件を思い出すといい。これはあくまで「見た目が美味しそうな料理」を競う勝負」


「……ナユタさんの、雑。ただ茹でてそのまま皿に移しただけって感じ」


 無表情口下手コンビに適切な指摘を受けて俺の心が痛い。


「あくまで趣味ってところでボクはあえて指摘しなかったけど、<英雄>って看板とナユタの知名度がなければ、お金払ってこんな雑な料理食べようってまず思わない。口にしたらとても美味しいから損した気分にはならないけれど」


「…………見た目は大事。結局何事も見た目。ふふ、滅べばいいのに」


「ロロイナ、ストップ! 今ちょっとブラックモードになりかけたね? 今晩、お風呂のあとの髪、僕が梳いてあげるから前向きに生きよう!」


 なーんか、ロロイナも色々爆弾抱えてるんだよなあ。

 そこん所はアルがきちんと手綱握ってるようなのであえて触れないけど。


「一方アルは見た目と食べやすさのために少しずつ皿に円と逆円を交互に添えている。そして彩を出す為に赤の唐辛子と緑のパセリをまぶしてある。辛いのや苦いのが苦手な相手でも、この程度なら、と思う程度に」


「贔屓目なしに、見た目だけならアルの勝ちですねえ。……味はナユタの圧勝ですが」


 セレンが淡々とお互いの料理を食してシンプルな感想をくれた。


「僕は勝てる勝負しかしない主義さ!」


 いい性格してやがる。

 皮肉じゃなくて、本心で。

 当たり前なんだよ、勝てる勝負しかしないなんて。

 それが必ずしも思惑通りになるかはさておき、勝てる算段がつかない勝負をする奴は馬鹿だ。

 けど無謀な挑戦をするのは己の意地か、環境か。

 それでもなお「勝てる勝負しかしない」を貫き通す信念は賞賛に値する。


 あ、俺? 馬鹿の部類だから。


「アル。今度、盛り付け教えてくれ」


「もちろん、ナユタにはいつも料理教えてもらってるしね」


 最初からこの雰囲気だったら、俺たちちゃんと勇者として背中を預けあえたんじゃね?


 なんて今更言っても仕方のない空論が頭によぎった

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