コイバナ(男性編)

 ある日の午後、俺とアルは俺の家のリビングで特にすることなくだらっと過ごしていた、

 俺は基本的に読書だが、アルも最近釣られてリビングの本棚から興味がある本を手にすることが増えた。


「なあ、アルー。コイバナしようぜー」


「成人した既婚者相手になんて話題をもちかけるんだ、しかも唐突に」


「いや年頃の男ってそういう話の一つや二つ、同姓とするらしいって聞いてな。俺経験ないからなんとなく」


「僕だってないよ。勇者って責務で僕の青春は無いにも等しいね」


「つったって、ロロイナと四六時中一緒だったんだろ。そこまで悲観するような状況か?」


「うーん、そうだなあ……」


 アルは俺が淹れたコーヒーをすすりながら、少し遠くを見つめていた。

 恐らく昔を振り返っているのだろう。


「ものの見事に何もないね!」


「マジか」


「強いて言うなら、国の各地を一緒に周れたのは思い出といっても良いのかな。あとは勇者辞める時にはロロイナとの結婚は大前提だったし、そういう意味だとコイバナにできるような話はなかったね」


「なるほどねえ……」


「そういうナユタはどうなのさ。僕がこの村に来た時には既にナタリアと恋人だったけど、どういった経緯があったの?」


「そーだなー。ああ、アルには話してなかったか。勇者のパーティに入った時、俺はナタリアが好きになった。初恋ってやつだな」


「おお、コイバナっぽい」


「んで結局エンブリオ含めて3人でパーティ抜けて、この村で隠居生活してたんだけど、ナタリアの色んな面が見れて、さらに惚れた」


「なになに、どんなところが!?」


「食欲旺盛、欲に弱い。美味い飯の味を知ると後先考えずに暴食して、一時期かなりデブってた」


「……ん? それ惚れる所?」


「いや、なんつーか。普通の女性なんだなあって。パーティに居た頃はずっと気を張ってて、難しい顔をしてたけどさ。隠居してから緊張がなくなって好きに生きてるなあって。表情も豊かになったし。あとやっぱ女性だからか、体格を指摘すると泣きそうな顔になって、ダイエットまではじめてたんだぜ」


「今でこそって感じではあるけど、確かにパーティに居た頃のナタリアとは印象全然違うよね」


「逆にナタリアはどうして俺をってのは聞いた事ないんだけど。実は相思相愛ってわかったから恋人になった」


「僕から見ればナユタなら当然って感じもするけど」


「どこがだよ……」


「まず見た目はパーフェクト。ちょっと目付き悪いけど、言動も粗いからむしろしっくりくる。あとはとても優しい。甘いんじゃなくて、優しいんだよ。言動とのギャップがきっと女性の心を掴んで離さない」


「うげえ、男にそう褒められると気持ち悪いわ。あと実感ねえ」


「ま、ナユタのそういう所は天然だからね。言われて理解はできないよ。ナユタにとって当たり前の事だからね」


 よくわからん。優しくする、という事がそもそも何なのかわかってない。

 ナタリアに対して「恋人」として優しくする事はあるけれど、きっとアルのいう「優しい」は違うところだろう。


「結局さ、こういう話ってまずエンブリオ呼ばない? 僕は既婚者、ナユタは恋人がいる。一番恋から遠いのエンブリオでしょ? あのドワーフ大丈夫なの?」


「わっかんねえ。もう見た目も含めてこの村での生き方が老後のじいさんだから、愛だ恋だ、その先の結婚だに興味あるのかもわからん」


「じゃあ次は無理矢理にでもエンブリオを呼ぼうか。こんな急な話題じゃなくて、酒とつまみを用意してさ」


「りょーかい。エンブリオから初々しいコイバナ聞けたらマジで笑うから、笑ったらアル、俺を引っぱたけよ」


「同じく、笑ったら失礼だしね。いやー、楽しみだね!」


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