親探しのついでに問題解決
サザー街の門番には俺ら3人のギルドカードを見せ、ついでに子供たちについて軽く説明するとあっさり通してくれた。
「お、お会いできて光栄であります、英雄殿!」
まあ元とはいえ勇者パーティの一員だしね。
多少そういう風に見られるのは慣れてる。
馬車を『マルチウェポン』に収納し、俺たちはギルドに真っ直ぐ――
「わあ、おいしそー」
「兄ちゃん何あれ!?」
「髭の人ー、これ買ってー」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
好奇心旺盛な子供8人も連れていけるわけなかった。
なおナタリアはハイペースの馬車で完全に疲れきってる。
最悪1人でギルドに行って事前に説明しに行こうかと思ったがナタリアがヘバっている以上、エンブリオ1人に子守を押し付けるのは酷だ。
てかそれで迷子になったら困る。
探すのはこの子らの親で、改めて迷子探しなんかしたくない。
「ほれほれ、お兄ちゃんが困っておるぞい? 良い子にしてお兄ちゃんのいう事聞くんじゃぞ」
「はーい」
意外にもエンブリオは子供のあやし方が得意なようだ。
「エンブリオ、あんた独身だよな?」
耳打ちする。
「そうじゃが?」
貫禄といい、妻子居てもおかしくなさそうだし、今のやり取りでつい疑ってしまった。
ともかく、エンブリオのおかげで子供たちは素直に俺の後についてきてくれた。
「ナタリア。お前はどっかで休んでろ。あとでギルドに来てくれればいいから」
「そうする……」
ギルドに入ると、賑わっていた室内が途端に静かになった。
「ナユタ様!? それにエンブリオ様!!」
受付嬢が俺らの名前を呼ぶと、一気に室内がざわついた。
「英雄殿が2人も……」
「嘘、あれが伝説の『マルチウェポン』……かっこいい……」
「『鉄壁』のエンブリオ、さすが貫禄が違う」
まあ、いつものか。顔と名前だけ売れているってのも考え物だ。
あれ? でも俺らが勇者のパーティ抜けたって知らないのか?
「バカ勇者から解放されたって噂、本当だったのね」
「ってことは俺も英雄のパーティに入れるかも?」
「ばっか俺らじゃ次元が違えよ!」
ああ、それは知ってるのね。それでもなお俺らを英雄と呼ぶのは釈然としない。
ともかく俺は用事を伝える為にカウンターに座る。
「は、ははは初めまして。コホン、私は本日担当させていただきますリザリーと申します」
自分の事「わたくし」と呼ぶ奴、貴族以外で始めて見たわ。
確かに見た目はほんのちょっと前のナタリアには劣るが美人だし、ちょっと高貴の出ですって雰囲気はある。
まあいいか。
「ある闇ルートで攫った子供を奴隷として売ろうとした連中を1人殺し、1人は身動き取れない程度に怪我させてモンスターの出る街道に放置してきた」
俺はクズ奴隷商のギルドカードを2枚渡す。
「闇奴隷商……。まさかまだ存在しているなんて」
「俺も驚いてる。で、後ろの8人を一時的に俺が保護したが、このままって訳にはいかないので助力を願いたい」
「もちろん当然です。と、言いたい所ですが具体的には何をすればよろしいのでしょうか」
「あの子らには奴隷紋が付いていなかった。つまり両親は健在の可能性が高い。ギルドのネットワークを使って探して欲しい。あと可能なら見つかるまでこの街で預かってくれるとありがたい。金なら用意する」
「親御様の捜索はギルド内部で捜索はもちろん、ギルドクエストとして全国のギルドに発行いたします。子供たちの保護もお任せください。ですがお金は不要です」
「やけに気前がいいな。金以外の対価が欲しいのか? だったら用件を言え」
「二ヶ月ほど前から発行している討伐系ギルドクエストのクリアをお願いしたいのです」
「えっ、それだけ?」
「いえ英雄であるナユタ様、エンブリオ様でないとクリアは難しいのです」
すっと1枚のクエスト依頼書を提示された。
『ナナシー村付近の森に出現したジャイアントワーウルフの討伐 危険度A』
「ナナシー村に突如出現したジャイアントワーウルフの瘴気で他のモンスターが活性化しているのです。早急に対処したいのですが危険度Aではこの街の冒険者をかき集めても討伐できるかどうか……」
「はははっ、マジかよ。やっぱ日頃の行いって大事だわ」
ナナシー村周辺の凶悪モンスター大量発生の原因こいつじゃん。
マジかー。こういうのなんていうんだっけ、棚から牡丹餅?
「喜んで受けるわ。てかクエストじゃなくてもこいつは駆除するつもりだけど、そうだなクリア報酬はナナシー村の復興支援に充ててくれ」
「さすが英雄殿……! 慈悲深い」
「んな大層な事じゃねえんだわ。俺、今ナナシー村に住んでるの。いやー、毎日モンスター狩っても改善しなくて悩んでたんだわ。いやほんとラッキーだわ」
「英雄殿の住む村……、差し支えなければ復興の際、ナユタ様のお名前を使っても?」
「それで活気が戻るなら好きにしていいよ。エンブリオと、あとナタリアもナナシー村にいるから」
「英雄が三人もいる村……。それだけで観光地ですね」
「ま、程ほどにな」
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