先入観を無くし、正しい理解を

「久しぶり、ナユタ。一週間ぶりぐらいか?」


「七年ぶりだ。その時間感覚おかしいのなんとかならない?」


「伊達に長生きしてないからねえ」


「七年もすれば背とか色々違うだろうが」


「人間の見た目ってぱっと見てもみんな同じだからさ。ナユタは存在がかなり『こっち側』だから一目でわかるけど、見た目だけだと何も変わったようには感じないねえ」


 俺の師匠にして、灰の村の守護神。

 名前はないらしい。だから師匠と呼んでいる。

 

「んで、人間としては七年って結構な時間だよね。その間顔を出さなかったナユタは何の用かい?」


「昔みたく、修行をつけて欲しい」


「良いよ。七年も経ってるのにまったく何も変わってないんだ、焦る気持ちも出てくるよね」


「……、俺が何も変わってない? これでも色々とだな」


「さっきも言ったけど、俺は見た目とかで生物を判断してない。ナユタを構成する内の力とか、そういった……これは俺の感覚的なものだから人間に説明するのは難しいけれど、本来きちんと成長すれば変化があるはずなんだ。まあなんだ、軽く一本やろうか」


「ルールは?」


「は? 馬鹿じゃないの?」


 そういうと師匠は当たり前のように杯を投げつけてきた。

 俺は「マルチウェポン」でナイフを取り出しそれを受ける。

 しかし、ただの杯のはずなのに斬るどころか勢いを殺す事も難しかった。

 滑らせるように杯の方向を曲げ回避し、師匠からの攻撃とそして俺から師匠への攻撃を行うために「マルチウェポン」を――。

 ポンと、正面から笑顔で肩を叩かれた。これが武器やスペルでの攻撃だったら?

 完全な敗北だ。


「むしろ、弱くなってない? 判断力に欠ける。まず『やろう』と言われた時点で『ルール』とか言っている時点でズレてるよ。んで、行動全てが『頭で考えて動いている』 もうこれ論外。技術的なところですら、まだまだだよ」


 突きつけられる現実。

 俺は、弱いという十二の頃では当たり前だったけど、今では無縁だった事実が少し辛い。


「とはいえ、逆に言えば後は伸びるしかないよ。判断力や決断力は実践を積む事。あとは、まったく変化してないナユタの内の力を使いこなせるようになろうか」


「……内の力って魔力の事か? 残念だけど、俺は魔力は一切ない」


「人間が内の力を『魔力』と称しているのは知っているけど、それがないからって、内の力がないわけないんだ。言い換えると生命力と言えば、もう少し具体的にイメージ出来るかな? 文字通り生命があるものの力の源、みたいなものさ。それが無いなら生命として成り立たない。 だから生命力で行使する魔法や君達がクラスの恩恵で使用している『スペル』だっけか、それを使い続けると疲労感や場合によっては心身への負荷、そのまま気絶、最悪死に至るのはそう言った理由がある」


 魔力、イコール生命力

 生命力、ノットイコール魔力。

 生物が持って当たり前の力が生命力。


「……俺に魔力はないが、他にそういった力があるってことか?」


「正解。昔に比べてナユタはそういう頭の回転は凄く良くなっているね。元々センスはあったけど」


 魔力がないと思い込み、ずっと使用していなかった体の中にある力を行使できるようになれば、俺はもっと――。


「強くなる為には己を知ろうとし、悩み、試行錯誤するのが王道だけど。でもナユタの場合はそれが必ずしも正解ではない。なのでさくっと答えを教えちゃおう。そしてそれをきちんと使いこなせるようにしよう。それが今回の修行ってことで」


「いいのかよ、師匠って普段勿体を付けるだろ」


「だって、普通の人間が普通にの思考で、普通のアプローチをかけたら一生答えなんて得られないよ。だってナユタの生命力は俺と同じ『霊力』だから。『霊力』について知識があるのは、この世で俺だけだからね。当然、本やらなんやらに残しても居ない」


 俺と師匠が同じ力、つまり『霊狐』と同じだけの力が、俺にはあるということだ。

 少し震える、この修行で使いこなせれば俺はもっと強く――


「さてナユタ。ヒントも答えも色々出した。ところで、人間を辞める心の準備はできたかい?」

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