『英雄』を超えろ

 一ヶ月、師匠の下で修行を続けた。

 俺の「霊力」について、その扱い方法について。

 通常の戦闘技術、を実践方式で学んだ。


「うん、センスだけはあるよ、ほんと。今はただの人間が、そもそも俺の修行に付いてくれる時点ではっきりって異常だよ」


「結局、一発も当てられなかったけどな」


「一応俺、神に最も近い存在だよ? 人間がそれに届くことが、まずあってはいけない。そのあってはいけない領域にナユタは足を踏み入れている。一応言っておく、自覚してね」


「……まあ、普段は『霊力』なんか使わねえよ。仮に霊力を魔力と置き換えたとしてそれも使う必要が今までなかったし、多分よっぽどの事がないと、これからもない、と思う」


「けど、魔王との戦いに巻き込まれたら、わからないよね」


「なんか知ってるんか?」


「知ってるし、識ってる。あれでしょ、青い髪の男でしょ。あれは俺でも結構やばいねえ。あいつも、神の領域に当たり前のように居る。魔神なんて言われてるらしいけど、まさに魔の神だねえ、あれは。できれば一生関わらないほうがいい類の生物だねえ」


 師匠に修行を就けてもらって「霊力」もそこそこ扱えるようにはなった、つもりだ。

 けど、前に対峙した時のイメージからして、魔神と呼ばれる青髪の男にはまだまだ足元にも及ばない。


「はいこれ。免許皆伝? みたいな感じの」


 師匠は一振りの太刀を放り投げてきた。

 柄を握った感じも、鞘から取り出した刃の重さも、何故かとても手に馴染む。

 自分で作った自分のための武器とは、何か一線を規すような、不思議な感覚だった。


「強くなる方法の一つで、一番お手軽な方法をあえて教えなかった。普通にさ、強い武器を持てばいいんだよ。ナユタがあのエルフの剣を作ったようにさ。修行もなにもない、道具一つで簡単解決さ」


「……、これは?」


「俺と同じく名前はない。名付けたければ勝手にするといい。言霊程度で質が変わるほど柔なものではないし。ただ、まあ無機物とは言え、それも神の領域の代物だ。ナユタがどれだけ努力したって作れない、ナユタの子や孫、そのまま未来に託したって永劫に辿り着けない領域の太刀さ。まあそれも出来れば使ってほしくないし『マルチウェポン』にでも隠しておいてくれると嬉しい」


「もし、この太刀と『霊力』を使ったら、俺は師匠とどれだけやりあえる?」


「いいねえ! 結構脅したつもりだけど、そうでないと!! ナユタは強くなりにきた。結果強くなる要素は増えたけど、色々あって使用しない。そんな馬鹿げた話があるかい!? おいで、神の領域に!!」




 俺はその太刀を手にし師匠へ切りつける。

 太刀の間合いより二歩半ほど手前で切りつける。

 刃は届かず、しかし師匠の着物に切れ目を入れた。

 この一ヶ月ではじめてまともに攻撃が通じた。


 完全につかいこなせてはいない、あと半歩踏み込めればマシな攻撃だったろうに。

 まだこの太刀と「霊力」の制御がおぼつかない。

 

「ははっ! 既にその太刀を引き出せてる!! いいよ、もっとおいで! たかが人類じゃその太刀もナユタの『霊力』も全力でぶつける相手なんて、あのクソ青髪魔神しかいないからねえ!!」


 熱くなるな。

 まず一呼吸。

 「マルチウェポン」 不要。この太刀より優れた武器はない。

 「付与師」 今はまだ、フルエンチャントが限界。それ以上は『霊力』の反動に耐えられない。

 『英雄』 不要。もはやスキルという概念に留まる行動ではない。

 「勇者」 不要。クラスという枠組みに縛られるな。




 この思考を那由他の内の刹那で導く。

 判断力、決断力とは、考えないことではない。

 情報の取捨選択と、その速度だ。当然処理する量は多ければいい。

 それをこの一ヶ月で磨き続けた。



 

「お見事。『霊力』による『付与師』よりも恒久的な身体強化、及び攻撃時に『霊力攻撃』を乗せているね。見た目より射程があるから、獲物の間合いに捕われてると手痛い攻撃だねえ」


「率直に聞くけど、俺はあの魔神? に対抗できるか?」


「無理ー。絶対無理。俺にも勝てないだから、絶対無理」


「……がんばるわ」


「そう、それでいい。絶望したら種族は終わる。常に前へ、いざ前へ!」


 師匠のよくわからないテンションを背中で聞き、俺は社後にした。

 

「少なくても『霊狐』はナユタの味方さ、がんばれ、少年!!」




「なあ、神様。面白いだろ? 『英雄』なんてくだらないものを押し付けた少年が、今では『霊狐』に匹敵する存在だよ? 間違えたのかな? 神様なのに? わざとなのか、失敗なのか俺にはわからんよ。でもさ、もし聞いてるなら心しなよ」


 ――神様、あんたらの敵は間違いなくナユタだよ。

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