魔神だって、普通の子

 私には嫌いなものが……考えてみると、沢山ある。

 食べ物でいうとピーマンが嫌いだ。

 歳を取ると味覚が変わって美味しく感じるというらしいが、あれは万を生きていても無理だ。

 

 汚い部屋も嫌いだ。

 いっそう殺風景で、何も無いほうがいい。

 無駄に着飾った家具に埃が溜まっているのが鬱陶しい。

 掃除をしようとすると、家臣が青ざめるので何も言わないでいるが。


 そして、一番嫌いなもの。

 主を愚弄するものだ。


「ガーネット様、次はこのような――」


 万を生きる私が、たった数百を生きた程度の男に「太った中年」と表現をするのもおかしいが、忌まわしいオルコットという現時点では作戦指揮官の地位にいる存在が嫌いだ。

 どうして我が主を、名前で呼ぶのか。

 どうして我が主に簡単に近づくのか。

 どうして我が主にその醜い姿を――。


「どう思うハーヴェイ」


「……、その決断をできる立場にございません」


 どうして私は、ただの将軍でしかないのか。




 夜中、梟が一通の手紙を届けてくれた。

「紅茶を楽しもう」

 我が主のお誘いだ。

 ふと、自分の顔が微笑んでいると自覚し、この感情を切り捨て居るよう無心にする。




「して、この度のおろろ?の作戦をどう見る」


「それが本気で仰っているなら、人の名前を覚える努力をしてください我が主、オルコットです」


「むしろ一文字あっていた事を褒めてもらいたいぐらいじゃ。あの油ぎったおっさんと会話せねばならぬ。そんな性癖、余にはない!」


「……殺せと命じられれば、そう致しますが」


「もう、そういう話ではない! 余の感情は置いておいて、今回の作戦自体に意味はあるのかえ?」


「半々ですね。口減らしがそもそも主とするなら、勇者に始末させるのが一番無難です。国民からの敵視も我が国の方針ではなく、勇者へ向けられます」


「しかし今回のはのう。今までの長期戦では勝てないからと、一気に敵国の首都を攻めようというのは、ちと考えなしでは?」


「だからですよ。その場合、今までの敗北への怒りは相手国や勇者に向けられていた所を、今回の作戦で一気に我が主へ向けようとしております」


「ついにオットットが余を謀ると?」


「それをさせないのが私です。つまり、この作戦は私が参戦し、本気で戦うよう誘導されているというのが個人的な見解です。あとオルコットです。さすがに可哀想に思えてきました」


「ハーヴェイが戦うなら……勝ってしまうのでは?」


「あの男の本当に面倒くさいところです。口減らしをしつつ、大勝も大敗北もなく、今の均衡を保つよう動かなければなりません。非常に厄介です」


「そして匙加減を間違えれば余への不信や、不要な期待感が生まれると。面倒よなあ」


「我が主の為なら喜んで最善の結果を。と言いたいんですが、オルコットがさらに図に乗るのが目に見えているので、少し気だるいですね」


「すまぬのう。さっさとオなんとかの首刎ねておけば気苦労もなかろうに。余に出来るのは紅茶を淹れてあげることよなあ……。ハーヴェイは角砂糖三つだったの?」


「私如きの好みを覚えていただき光栄です」

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