霊狐様のご依頼

「ナユタとの修行で『霊力』使いすぎた所為か、この辺のモンスターに影響が出ちゃってねえ。あと一ヶ月ぐらい灰の村に居てくれない?」


「……、一応この村の守護神っていうか、神様的なんだよな。何普通にうちで飯食ってるの?」


「神様扱いだけど神ではないしね。美味しい食事もお酒も大好きさ」


 修行も終わり、そろそろナナシー村に帰ろうかと話し合っていた頃、師匠は当たり前のようにうちに訪問し、当たり前のように同じテーブルで夕飯を食っていた。

 親父もお袋も、何故か師匠の来訪に一切に戸惑いはなく当たり前のように迎えていた。


「あれ? 言ってなかったっけ、俺わりと頻繁にご飯をご馳走してもらってるんだよ」


「マジかよ。ていうか、しれっと心読むような真似するなよ」


「基本的に俺がなんとかするけど、対処しきれず村にまで来た場合、ナユタに防衛をお願いしたい。『霊力』を使うほどではないけど、まあまあ手強いから」


「俺一人では決められねえよ。まずは仲間と――」


「ああ、エルフとドワーフと『賢者』の人かい? 先に帰らせていいよ? どうせ役に立たないし」


「……おい、流石に馬鹿にしてんだろ」


「じゃあさ、君のお仲間と、この辺に『霊力』に影響を受けた鹿型のモンスターが一匹居るんだ。本来群れるモンスターだけど一匹だけ影響をうけて、群れを全部食い尽くしたのがいるんだ。それで見極めてごらん」


「なんか乗せられた気もするが……。行って来る」




「ナユタ、ごめん。私じゃ、とてもじゃないけど相手に出来ないわ」


「耐久だけがワシの強みじゃが、五、いや三でも攻撃を受けたら死ぬ。当然、盾としてのフォローもできぬ」


「最適解として、モンスターがこちらを意識していないうちに単体攻撃かつ高威力のスペルをありったけのMPを練って……。モンスターが絶命するか、返り討ちになるか。インスタントスペルをまったく持ってきていないのが悔やまれる」


「ナタリアに『英雄の剣』渡したら?」


「私は『英雄』の恩恵の扱いに慣れていないわ。回避スキルが自動発動しようとも、確実に避けられるという自信はないわね。もし迂闊にダメージを食らうと……」


「ワシがダメージを肩代わりするじゃろ。これでワシの体力ごっそり削られるから、スキルで相手の敵視を集めるのも難しい。かといって先に敵視されてしまったら、『ナタリアなら避けられたかもしれない攻撃』をわざわざスキルを使ってダメージを受けることになる」


「ヒーラー兼後衛アタッカーのボクがどうしてもヒーラーに回らないといけない。火力不足に直結する」


「ところで、なんでそのネガティブな戦い方に、俺が含まれてないの?」


「「「ナユタなら一人でどうにかするから」」」


「まあ、確かに俺一人でも全然いけるけど、言うほどか?」


「先の魔王軍の敵将ぐらい怖いわよ!!」


「しかしナユタがいるならリスクは少ないじゃろうし、まずは死なないよう挑むのも悪くないのでは?」


「いざとなったらナユタがなんとかするからね」


 いまいち納得できないが、結局<英雄>で霊力で活性化したモンスターに挑む事となった。

 まずエミルはスペル詠唱をはじめ、強い魔力を練り始める。

 それにあわせて俺はフルエンチャントを三人に付与する。

 俺は正直、エンチャントなくてもいけると思ってるので使用しない。

 強化した結果「やっぱりナユタが」とか言われたくはないので。


「ん、いつでも撃てる」


「ほれ、ナタリア」


 ナタリアに『英雄の剣』を渡す。

 受け取ると一瞬でモンスターに接近し、高速の乱舞を発動した。

 ……ん? 確かに早い攻撃だけど、雑だなあ。

 

 あまり攻撃が通じておらず、モンスターが軽く弾き返すように体を動かすと、ナタリアはすぐに回避行動を行う。

 だが完全には避けきれず、また受けも疎かだった。

 事前にエンブリオのスキルでダメージを肩代わりさせていたのでナタリアにはダメージはない。

 代わりにエンブリオは口から血を吐いた。

 

「『エクスカリバー』」


 エミルが事前に構築していたスペルを発動する。

 無属性の貫通系スペルだ。

 遠距離から剣を突き刺すイメージの威力と発動からの速度重視のスペルで、それを避けきれるほどモンスターは俊敏ではなかった。

 エンブリオの回復に回るため、既に構築したスペルを急いで発動したといった所か。

 しかし確かにダメージは与えたものの、致命傷ではなく威力のためかモンスターの敵視はエミルに向かってしまう。

 エンブリオはそれを悟りスキルで敵視を逸らすが、しかし既にダメージを受けているので攻撃を防ぐ、いなすスキルに繋げられるかどうか。


「よっと」


 俺は適当な鎌をマルチウェポンで取り出し、エンブリオに向かってくるモンスターの首を刎ねた。

 うーん……三人ともただビビってるだけだと思ったけど、マジだったか。




「それが今回の修行の成果、なのかしら?」


「いや? まあ基礎体力とかは上がったけど、普段どおりだぞ?」


「ね? ナユタ一人でいいでしょ?」


「……いきなり出てくるなよ師匠」


「逆に邪魔じゃない? 仲間なんていう馴れ合いで一緒に戦おうなんて。俺だって今回の件で誰かに頼むような話だぜ? 戦えないお荷物守りながら、ナユタ一人で全部が救えると思う?」


 モンスター討伐の帰り道、急に出てきた師匠がそんな「くだらない」話を持ち出してきた。


「俺はさ、師匠の事を尊敬してるしつもりだ。でもな」




 俺は『霊力』を解放し、マルチウェポンから師匠から受け取った無名の太刀を取り出す。

 師匠も当然のように『霊力』を解放するが、一瞬の隙を俺は見逃さない。

 そして俺はその一瞬を一切縮めさせない。

 さらに『霊力』を放出する。


「あー、ギブ! それ以上はダメ! 流石にこの場じゃ禁止!」


 力を抜き『霊力』を収める。

 太刀もマルチウェポンに収納し、師匠を睨む。


「俺の仲間を馬鹿にすんなよ。てめえ見てろよ。一ヵ月後、二度と馬鹿にさせやしねえよ」


 

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