エミルの特訓、それとついでに切り札
「さて、そこのポンコツ賢者をある程度まともな魔法師にするため、クエストを受けてきた」
内容は「ウルフの群れおよそ20匹の討伐」、当然ナナシー村の周辺だ。
上位種のワーウルフがいなくなり、ごく普通のありふれたモンスターが出没しているなんて、平和を改めて実感する。
「え? ボク別に冒険者として活動する意味ないと思うんだけど」
「ほう、その心は。生意気言うと『フルエンチャント』と『毒』を付与して尻叩くからな」
「淑女のお尻を触るという事は責任取って結婚してくれるってこと?」
「じゃあ鳩尾に思いっきり下突きする」
「…………。ナユタの料理屋で全うに働いている。ボクが冒険者になったのは衣食住を確保するため。既に満たしている。危険な冒険者としての活動はいらなくなる」
「よし。『フルエンチャント』と鳩尾攻撃は止めてやる。だが『毒』付与してビンタな」
「えっ、なんで!? ボクは何もおかしい事は言っていない!!」
「結局俺依存じゃねーか。俺の料理屋は趣味な? 気が変わればいつでも辞めるんだよ。そしたらお前どうすんの? 働き先は? そももそまさかこのまま俺の家に住み続けられるとでも?」
「冒険者の活動より、この村で全うに働くほうが……。いや、問題はナユタの家を追い出されたら住む場所がなくなるのか……」
「はい、そういうことなんで、いいから仕度しろ!」
クエストの目的を伝える。
「討伐は二の次。エミルは才能だけは恵まれているので、本人がやる気さえ出してくれれば個人の能力は勝手に伸びると思う。だが、今までおかしなパーティ編成で戦っていたので、今回は基本中の基本な戦いかたをする」
今まで最前線をナタリア、ナタリアとエミルの援護に回れるよう俺が中衛。魔法師のエミルは後衛だがそれを付きっきりで守るエンブリオという布陣だった。
しかし、タンクのエンブリオ、近接アタッカーの俺とナタリア、遠隔アタッカー兼ヒーラーのエミルならば、本来であればエンブリオが最前線で敵のヘイトを集め、俺かナタリアが攻撃をしかけ、もう片方がエンブリオが集め切れなかった敵を迎撃する。そして遠隔アタッカーのエミルが安全圏で強力なスペルを発動する。これが基本で理想の動きだ。
しぶしぶクエストを受ける事に承諾したエミルを引きずって、クエストを攻略した。
結果として言えば順調。
なんだかんだで天才肌のエミルは基本陣形になれつつある。
魔力調整も上手くなっており、不用意に過度な魔力を込めることもなくなり、かといって火力不足でもない。
「ナユタ、MPが限界」
「よし、よくやった。なんだかんだで冒険者に向いてるよお前」
エミルには今回、MP消費による行動の制限、最悪気絶になる前にギブアップするよう伝えてある。
あれで真面目なのか負けん気が強いのか、嘘でもギブアップしてしまえばいいのに、きっちり自分の限界まで戦ってくれた。
もちろん英雄3人からすれば普通のウルフが何匹いようが有象無象なんだが、あえて攻撃をせず耐えるという方針を取って行った。
エンブリオの集めた敵は俺が程よくダメージを与えておき、エミルに攻撃させた。
ナタリアはエミルに奇襲を掛けてくるウルフの討伐をお願いしておいた。
「じゃあもう1個テスト。お前らに俺の『マルチウェポン』を使わせてやる。なんかそれっぽい武器を頭に浮かべろ。
前にエンブリオが言っていた、俺の『マルチウェポン』に収納されている武器を渡せないか? という発案の元、『マルチウェポン』の派生スキルを考案した。
というのも、たった10分程度しか譲渡できないという制限で、戦闘前に渡すのは非効率だし、戦闘中に一々武器を渡していられない。
付け加えると、幾ら性能が優れていたって本人が使いやすくなければ返って重荷だ。
試しに「ナタリアが使いやすそうな剣」と思考し『マルチウェポン』を展開したが不発に終わった。
ナタリアにとって何をもって使いやすいかを俺が理解しないと、厳選してくれないのだ。
「『マルチウェポン・アンロック』」
「『マルチウェポン』『ショートソード』!」
「『マルチウェポン』『大斧』」
2人はそれぞれ手に馴染む武器を展開し、ウルフの群れを容易く薙いだ。
「なにこれ、ほんと馬鹿げて強い!」
「というか『マルチウェポン』にまだ伸びしろがあるとは……」
「最近エミルの協力を元にがんばってみた。ちなみに継続時間は1分。さらに効果終了後30分程度俺が『マルチウェポン』を使えなくなる」
ただし『マルチウェポン・アンロック』で引き出した武器が「俺の手元から離れて10分は使用できる」という部分は変わらない。
とはいえ引き出した瞬間10分は使えるのだ。
そして硬化時間1分間は慣れれば俺のように『マルチウェポン・アンロック』で引き出すだけ引き出して好き勝手できるわけだ。
「便利なようで、デメリットも大きいのね。『マルチウェポン』が使えないナユタは、それってただの錬金術師でしょ?」
「最低限自分の武器は用意しておくし、付与師としても援護には回れる。けどまあ、不必要に使う必要はないな」
「というか思いつきでそんなスキル拡張するとか、それってユニークスキル通り越してオリジナルじゃない?」
「ギルドには報告してないんでわからん。けど、表沙汰にするつもりはない」
ともかくエミルのパーティ布陣を叩き込むのと、俺の『マルチウェポン・アンロック』のお試しが終わったしさっさと帰ろう。
今日の晩飯はちょっと豪華にしてやるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます