美味しいは正義

「ふう。昼食でナユタの料理の腕はわかっていたが、しかし本当に料理が美味いのう!」


 魔王、ガーネットが俺のリビングで食後の酒を飲んでいた。

 万が一、安酒を渡し機嫌を損ねたくないのもあり、俺の秘蔵の米酒を渡したがお口にあったようで。

 一升瓶を空けるかの如く、遠慮なく飲み続けていた。

 ただ酒を呑むだけなのも何なので程よつくまみも作った。 


「ハーヴェイもー、お酒好きでしょー。美味しいよー?」


「我が……、ガーネット様。確かに私も酒は嗜む程度には飲みますが、その、いささか呑み過ぎでは」


「魔族のまずい酒なんぞ、呑み過ぎるほど飲めるかってのー。ひっくっ、それにこの透き通ったまるで水のような酒は……んんー、美味い!」


「ナユタ殿、すまない。我が主が――」


「余は主なんて名前じゃないー、ガーネットっていうお父様が付けてくれた名誉ある名前があるのー。それを呼んでいいのはハーヴェイだけなのじゃー!」


「ガーネット様の酒癖が悪いといず知らず。ナユタ殿、誠に申し訳ない」


 今日の晩飯は、一応魔族の偉い人が急に来てるし色々やべえって説明して皆にはこないよう伝えてある。

 伝えておいてよかった……。

 これが俺たちが敵対する魔王? そして強敵の魔神? こんな姿見たら色々やばい。

 やばいしか言葉がでないぐらいやばい。


「ねえナユタ。どうするの?」


「どうするも……。放って置くしか」

 

 同じ家に暮らしているエミルはさすがに普段どおりうちにいるが、酒に酔った魔王とそれを介抱する魔神の姿を見て動揺を隠せないでいる。

 

「おかわり!」


「これ以上はなりません!」


「けちー! じゃあ代わりに余を抱いてくれ、ハーヴェイ」


 この場の三人がその発言に硬直する。

 特に魔神、ハーヴェイは真顔のまま一切身動きは取れない。


「余にもう酒を呑ませたくないのであろう? ではハーヴェイが余を抱いて恋人にしてくれればその願いも適うぞ?」


「……お戯れを」


「戯れで余の純潔を捧げるほど貞操観念は低くないわ! 余は、余は一体あと何千年生きればハーヴェイと結ばれるの? ねえ、ちょっと答えよナユタ!」


「えっ、俺!? うーん。襲えば? ハーヴェイさんに押し返す度量があるとは思えないしなー」


「煽るな。そして本当にやめてくれ」


「あ、わかる。ナユタって優しいけど意外と突っぱねる時は突っぱねるけど、ハーヴェイさんみたいに主ぞっこん系だと、押し返すのも不敬、みたいにそのままって感じがする」


「ほう、エミル。それはまことか?」


「試せばいい。私は、拒否されたけど。でもあれはナユタが思い人がいたからとか色々あるだろうから。ガーネットさんとハーヴェイさんとの関係とはまた違うのかなって」


「聞いたかハーヴェイ。ちなみに余の『神位』、知っておろう?」


 魔王、ガーネットの神位『都合の良い未来を手繰り寄せる』がある限り、行動に移したらそれつまり――。


「ダーリン、愛してる。この積もり積もった余の愛を受け取って!」


 エミルはアルの家に泊まらせて、俺はナタリアの家に行こう。

 どうぞ、お幸せに。

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