エミルの研究成果
「エミル、最近部屋に篭ってばっかだけど何してるん?」
ナタリア達からの誘いも断る事が多く、しかも晩飯の時に顔を出す時はかなり疲労していた。
気になって、最近何しているのか軽く聞いてみる。
「魔法陣の研究。最近ハマった。これには可能性がある」
「ああ。持続させたい魔法があるなら、スペルより陣のほうがいいんだよなあ」
俺はスペルはからっきしだが、陣の構築だけは得意だ。
スペルはその場その場で使用したいものを取捨選択できるが、魔力を一から練る事、そしてスペル事態を取得している必要がある。
一方で魔法陣は予め陣を構築し、相応の魔力を込めればほぼ永続的に機能することが出来る。もちろん陣の構築に誤りがあれば永久性は欠けてしまうし、込める魔力量が桁違いなので失敗する可能性も高い。
陣は攻撃には向いていない。例えるなら、常に炎を起こす陣を敷いたとして、誰がそこに飛び込むのか。
というか味方すら巻き込む。
なので味方にのみ機能する回復やバフ効果の陣を敵襲に備えて展開をしておく、というのが主な使われ方だ。
「まだ研究中だけど、陣は別に持続性が強みではない。例えばこれ」
エミルは紙に書いた魔法陣を取り出す。
既に魔力が込められているのか、ほんのりと発光していた。
「いきなり高威力は失敗した時のリスクが大きいので、蝋燭程度の火を起こす陣を予め紙に書き記し、魔力も発動直前まで込めてある。そして、最後に発動のための魔力を込めると」
ぼっ、っと魔法陣から小さな火が放たれた。
「陣の欠点は構築に時間が掛かる事、そして魔力を込める量と時間がかかること。では、予め小規模の魔法陣をこのような紙に構築し、発動限界直前まで魔力を込めたら?」
「通常のスペルよりも簡単に高威力の魔法が発動すると?」
「そういう事。スペルは使用する際に魔力の込め方で威力調整ができるけど、魔法陣を用いた簡易魔法はそれができない。しかしいざすぐにスペルを使用したいという場合、威力調整よりもまず、どれだけ早く発動するかが一番の問題点だ。時間に余裕があるなら普通のスペルを使用すればいい。要は使い分けだとボクは思う」
「なんか、本物の賢者って感じだな」
「ボクは紛れもなく賢者なんで。あと、この魔法陣のメリットは『誰にでも使えるアイテム』ということ。既に魔力が込められているので、最後に発動させるためだのほんの僅かな魔力で発動できる」
「魔力さえ少しでもあれば誰でもスペルが使えるってことか……。よし、陣については俺が詳しく教えてやるから、凄いの作ろうか」
「えっ、ナユタってスペル使えないよね?」
「スペルが使えるのと陣構築ができるのとは別だ」
「……ちなみにどの程度?」
「一番でけえ構築したのは、『孤児となった子供は奴隷になる』って陣を国全体に展開させたぐらいだわ」
「あの有名な『闇奴隷商人殺し』ってナユタの陣なの!?」
「おい物騒な名前だな。自分で言うのもなんだけど、良い事したつもりなんだが」
「そのおかげで闇奴隷商人は一斉に摘発され逮捕された。そして今でも隠れて活動している闇奴隷商人もいるけれど、被害はほとんどなくなった。さすがナユタ、英雄」
「英雄と陣構築は別問題だ。陣の構築は普通に座学だから、週一程度に教えてやるよ」
「ありがとう。助かる。この『インスタントスペル』でボクの名前を歴史に残すんだ」
確かに便利だし、発想も驚くべきなんだろうけど、最終目標が残念すぎる。
こうして、週に一度、俺も構築方法を忘れている部分もありそれを思い出すのも含め、エミルと陣構築の研究を始めることになった。
ちなみに俺は魔力は一切ないので、その恩恵を得られる事はないのだけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます