災害、再び

「いや、それは、ちょっと」


 月日は流れ、村での生活に完全に馴染んだ頃だった。

 僕は彫金師のスキル情報やアイテムを買う為『ワープ』でサザー街にきていた。

 ついでにギルドカードを更新し、彫金師のレベルを確認するつもりでギルドに立ち寄った。


 それが不幸の始まり。

 常に僕はトラブルに巻き込まれないといけないのか。

 渡されたのは1つのキングダムクエスト。


「今、ククリス村と魔王の領土の境目に大軍が押し寄せているんです! どうか勇者様のお力を!!」


 勇者を辞めた、臆病なただの彫金師に何を言っているのか。


「僕は勇者を辞めている。本物の勇者に頼むべきだと思うよ」


「そうしたいのは山々なんですが、まったく正反対の位置の領土線に同じく大軍の進行を阻止してもらってます。なのでもう身動きができない状態なんです!!」


「なら王国の騎士団でもなんでもいいから、足止めぐらいさせればいいじゃないか。どうして僕がやらなきゃいけない?」


 いや、本来ならこれは僕が受けるべきだ。

 勇者が二人居たからって、別に片方が辞める必要なんてないんだ。

 こういう事態もありえるわけで、対抗できる力は多くて困らない。


 だから僕ははっきりと断れなかった。

 当然僕は弱い。

 きっとこれを受ければ死ぬ。

 ロロイナとセレンは村に残していくつもりだから、あとは考えなしの傭兵を金で雇って、まあそのまま半日ぐらい足止めできればいいかなってぐらいか。


 死にたくない。

 けど自分可愛さに断ったら、もっと多くの人が死ぬ。

 ククリス村は偶然か必然か、僕とロロイナの産まれ故郷だ。

 ロロイナへの酷い仕打ちは忘れないし、あんな村滅んでも気にはしないけれど。

 けれど、後味が悪い。


 どうしようかと悩んでいる時に


「せめて、英雄たちにもこの事をお伝えできないでしょうか!? 同じ村に住んでるんですよね? 勇者様と英雄たちなら――」


「いい加減にしろ!!」


 僕はカウンターを叩く。


「今なんて言った? あいつらもこんな危険な事に巻き込もうって? 冗談じゃない!!」


 どいつもこいつも身勝手だ。

 確かに英雄三人は強い。

 けど今は己の意思でナナシー村でゆっくりと余生を過ごしている。

 勇者の責務から逃げ出した僕ならともかく、まったく義務のない三人を渦中に巻き込むだと?


 もういい、こんな国滅べ。

 我が身可愛さで関係ない人間を犠牲にしようなんて考えてる時点で、腐ってる。

 魔王でもなんでも、好きに侵略してくればいい。

 僕はこのままナナシー村で、国が滅ぶその瞬間までロロイナと幸せに過ごす。

 知ったことではない。

 そして英雄三人なら生きて他の国に逃げて、同じような幸せな生活を始めから築けるだろう。


 戦いにしか興味ないナユタと、自分の剣にまっすぐだったナタリア。

 それがパーティを組んでた頃の印象だった。

 けれど今では甘ったるい恋仲をしているのだ。

 微笑ましくて仕方ない。戦い以外の幸せを謳歌している二人の姿は心が温まる。

 もし僕が今でも勇者だとして、守るのは国でも世界でもなくて、ロロイナとの生活と、あの二人の幸せだ。


「ですがこのままでは国が滅び、ぎゃっ」


「うっせーよ、こんな表で物騒な話ししてんじゃねーよ」


 若いギルドの受付嬢を小突いた誰か。

 それは他の誰でもなく『英雄』ナユタだった。

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