第3手 玉の守りは金銀銅プラチナ5枚の世界
今日俺は順位戦。
名人になる為には非常に重要視される対局である。
将棋界は、昔から頂点より実力順のピラミッド型になっている。一番上からA級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組。規定上、どれだけ順位戦において良い結果を出しても、飛び級など無いために、一番下のC級2組から名人になる為には、最短でも5年はかかってしまうのだ。
俺は今年プロデビューしたから、つまりC級2組に在籍しているのだが、こんな所で足踏みをしている訳にはいかない。
俺は今年度、今の所順位戦は全勝。実は既にC級1組へと上がることは確定している。
そこでだ。今日の対局は、つまり消化試合。だからと言って、一人のプロ棋士として手を抜くつもりは無いのだが、ただ一つ。どうしても試してみたいオリジナルの新戦法をぶつけてみようと思っている。
「先手番は
先手になったぞ。さあ、運も味方につけた。俺は飛車にオーラを込めた。俺は光属性である。
因みにだが、属性は一人必ず一個しか扱うことができないし、属性は生まれた時から決まっている。
そんな中、希少な光属性に恵まれた俺は幸いである。
そして、光属性の特性は速さにある。つまりどういうことか。光属性を
俺は飛車を横にスライドさせる。
「先手、4二A飛」
そしてこれからが光属性の強み。さらにもう一手飛車を動かせる。
「先手追撃、4三A飛、4三A歩弾く」
光属性を纏った飛車は勢いよく自陣の歩を弾き飛ばし、4四十七Aにいた敵陣の歩を食い破り、初手で敵陣を突破した。
一瞬、相手の顔に動揺が見えたように思える。俺は既にこの時点でリードを確信していた。だが、落ち着いた手つきで相手は、ある駒をそっと掴んだ。
それはプラチナ。
「俺が土属性だということを忘れてないか?
「後手、4三Aプラチナ右」
プラチナは、敵の駒の前に瞬間移動できる駒である。さらに土属性を纏った駒の周囲縦横斜め2マスの駒は、三手先まで動かすことができないのだ。
プラチナがあっという間に飛車の前に移動した。次は俺の出番だが、土属性で飛車が動けない為、プラチナをどうやっても取ることができない。
「飛車が詰んだ…。くそっ!玉を一先ず囲うか…!」
歩を弾いたばかりに飛車の頭がガラ空きになってしまった。定跡を舐めていた俺は後悔した。
「先手、24二B玉」
くそ! 初手から
さすがに二手目にして飛車が取られるとは思ってもいなかった。やはり
正直、振り飛車が指されなくなった理由が分かる気がする。
俺は奇襲のつもりで振り飛車をあえて選択したのだが。まさか、こんなカウンターを喰らうことになるとは思ってもいなかった。それならば、やはり浮き飛車を選択するべきだったのだと痛感する俺。
ちなみに俺が今回考えていた戦法の構想なのだが、飛車を4筋に振って居玉のままで戦う。そして、相手が玉を囲い切る前に攻めつぶす。
俺は昔、噂で数百年前にこう言う画期的な戦法が猛威を振るっていたと聞いたことがあった。それに属性攻撃を加えることで尚、完璧だった筈なんだが。
今回の対局を勝利で飾り、『たれぞーシステム』と言う戦法名が付けられることが夢だったのに、その夢は開始1分で打ち砕かれた。
「隙を見せたな、羽野四段。」
「しまった!」
さらに俺は、対局中に最も命取りとなることをしてしまった。それは対局者から目を離すこと。
『残り時間よりも対局者を見よ』という格言を改めて痛感する。
案の定、相手の土属性が込められた歩を俺の胸にぶつけられた。
「後手、25三A歩投げる」
土属性の込められた駒がぶつかれば、
「くっ…くそ!」
足が土に埋まり、ちっとも体が動かない。こんなまともに土属性の攻撃を喰らったのは初めてだ。しかも相手は、俺の隙に漬け込んでかなりの土属性のオーラを込めた歩をぶつけて来たようだ。
相手も勝負手だった。
そして、俺の脳内を嫌な予感が過る。
「
俺の予感は的中した。
こんな名前も正直知らないレベルの棋士に俺が負けるとは。甘かった。
そして無情にも、俺は持ち時間を全て使い果たし、黒星がついてしまったのだ。
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《100年後の将棋について、その3》
プラチナ
この駒は一度だけ、敵の駒の前に瞬間移動ができる駒である。属性を付加することでさらにその価値は高まり、切り札と成り得る駒である。使うタイミングは難しく、一度瞬間移動した後は、歩と同じ動きしかしなくなる短所もある。その為、『プラチナの瞬間移動歩の餌食』と言う格言がある。
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