第89手 今更ながら将棋の概念が意味不明な世界

 将棋星人がダメージを喰らい、辺り一面にあった水はあっという間に消滅した。


「ゲホッ!ゴホッ!」


 溺れかけていた天音姉妹だが、なんとか無事でいてくれた。かなり咳き込んで苦しそうではあるが…。


「せっかく木材の調達に行っていましたのに…奇妙なオーラを感じたので飛んで戻って参りましたわ。」


「にゃ? これが将棋星人か? 案外弱いじゃねぇか。」


 そう、本来ならば俺らは将棋星人を既に二度倒している。俺の斬、天音姉妹の拳で。だけど、コイツはまた復活する筈だ。


 そう思っている最中、やはり首の切断面が触手で繋がった。


「キモいですわね…。」


 星六段と猫王が地面へと降り立った。将棋星人は、頭部が完全に元通りにくっつくと、何事もなかったかのように立ち上がって来た。


「次から次へとプロ棋士達が湧いて来るね。 大体、将棋は一対一の戦いなんだよ?」


 確かにフェアじゃないかもしれないが、今回ばかりは地球の運命を背負っているのだ。それに、これまでの戦いだって全てが一対一だった訳ではない。勝たなければならない時は、どんな手でも繰り出さなければならないのだ。


「悪いな、俺らは本気で地球を守りたいんだ。そして、必ず将棋界の復活を果たしてやる!」


 俺は、自らの命に代えてでもコイツを倒す。再び極玉ごくぎょくを手に掴んだ。


 しかし、その時だった。


 胸に強烈な痛みが走った。それと共に凄まじい吐き気が込み上げて来る。


 あ、これヤバイやつだ。もう耐えられない!


「ゴボッ…!」


 ビシャビシャと滝のように、俺は地面に向かって大量のドス黒い血を吐き出した。


「たれぞー!」


 激しい目眩がして、その場に俺は倒れそうになる。しかし、かおりが地面にぶつかる間一髪の所で俺の体を支えてくれた。


「バカヤローが…! それ以上、極玉を使うな! それは命を縮めるんだぞ!? そこまでして戦わないでくれ!」


「すまねぇ…。でも、俺は負けるぐらいなら死んだ方がマシだ。」


 極玉にリスクがある事は百も承知だ。だけど、俺は本当にこの対局に勝ちたいんだ。


「ぶっ殺すぞ! お前が将棋界から消えたら意味がねぇんだよ! あのロリコン師匠が死んだ意味も無くなるんだよ!? 分かってんのか!?」


 は? ロリコンが死んだ? 俺は香に、豊田九段と宇宙旅行に行っているって聞いたんだぞ!?


「ロリコン師匠が死んだって…嘘だろ?」


「あのロリコンはな、将棋界を守るためにクソジジィを道連れに死んだんだ! お前が都合よく記憶を失くしてくれてたから、あたしはお前に嘘ついたんだよ!」

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