第88手 猫はいつの時代も可愛い世界

「うぐっ…!」


 将棋星人は遂にダウンした。


「「私らの勝ちね。」」


 いや、違う。


「ラン、リン! そいつは完全に消滅させないと復活するぞ!」


 そう、これは格闘技ではない。将棋なのだから完全に相手を詰まさなければならない。


「もう遅いよ。」


 殴られてパンパンに腫れ上がっていた五角形の顔は、いつの間にか元通りに回復していた。


「君達…中々楽しませてくれるじゃないか?」


 将棋星人は、辺り一面に大量の水を発生させた。俺らの膝下が浸かるぐらいの大量の水だ。ほんの一瞬でこんな量の水を発生させることができるとは、やはり凄まじいオーラを秘めているようだ。


「これなら全員動けまい?」


 将棋星人は、雷属性を纏わせた飛車を足元の水へと投げ込んだ。


 感電…! 痛い!


 やばい、痺れて動けない!


 俺ら全員、見事に術中にハマってしまった。


「まずは君達からだよ? さっきのパンチのお返しだ。」


 将棋星人は、ラン、リンの顔面を思い切り殴り飛ばした。


「ぐっ!」


「うあっ!」


 二人は後ろに倒れ、僅か30センチもない程の水に沈む。雷属性の麻痺により動けない。このままじゃ溺死してしまう。


 二ヶ所で泡がブクブクと出ている。


 将棋星人は、その泡が出ている所までゆっくり歩みを進めると、執拗なまでに何度も何度も小さな足で二人を踏み潰し続けた。


「や…や…めろ!」


 口も上手く動かせないが、俺は精一杯声にした。


「コイツらは、駒を使わず素手で殴って来たんだ! プロ棋士として失格だ! 同じ痛みを味わえばいい!」


 先程とは一転して、今度は逆にボコボコに踏みつけられる二人。助けられない自らの非力さに怒りさえ覚えた。


 しかし、その時。


「なっ!?」


 再び将棋星人の首が飛んだ。


「今度は…誰なんだよ!?」


 切り離された将棋星人の頭部が、やはり喋る。今の技は間違いない。


「空から失礼しましたわ。」


 上空には、星六段、それに加えて、脇に抱えられた猫王にゃんおうがいた。

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