第38手 歩を使った残酷な拷問がある世界

 さっきは、駒を使わずに殺すと言っていた犬王が、懐から大量の歩を取り出しやがった。


 拷問ショーだと?


 ふざけやがって。


 だが、俺は痛みで体が動かない…。


「すぐ死ぬんじゃねぇぞ?」


 犬王は、俺の砕けた右腕を遠慮無しに掴み上げた。


「ぐっ…!」


 強烈な痛みが全身を巡った。さらに、犬王は、一枚の歩を俺の小指の爪の間に当てた。


 お前まさか…


「うぐっ!」


 犬王は、何の躊躇いもなく、馬鹿力で歩を爪の間に挿入した。メキッと言う音と共に爪が宙を舞う。


「ぐ…あ…」


「残り9本だ。」


 痛すぎる…!呼吸をするだけで全身に電撃のような痛みが走る。


「次は薬指だ。」


 もうどうにでもしてくれ。俺はその後、順番に一本一本の指の爪を、歩によって剥がされた。


「ハァ…ハァ…」


 しかし、俺は完全に諦めた訳ではない。勝つ方法を探しているのだが、見つからない…。この人間離れしたパワー相手に俺の将棋が通じるのか?


「ワン!俺は…拷問の為に1000枚の歩をいつも持ち歩いている!そう簡単に歩切れになることはないっ!」


 犬王は、今度は踠いていた俺の頭を鷲掴みにして、無理矢理上半身を起こした。


「潰れろ…」


 犬王は、歩を三枚ほどまとめると、一気に俺の左目に押し込んだ。当然、眼球は潰された。


「ぐあーっ!」


 光を失った左目からは、涙の代わりに赤い液体が流れ落ちる。


「羽野…五段…!」


 カリン四段は、恐怖で腰を抜かしている。当然と言えば当然だ。


「ワンワン!男が無様な声をあげるな…よ!」


 犬王の奴、今度は俺の口の中に大量の歩を詰め込んだ。手で口を塞がれ、呼吸ができない。既に何枚かの歩を飲み込んでしまった。食道辺りに辿り着くまでが特に苦しい。なんとか、喉に詰まらずに胃まで行けたのだから、まだ幸いと言えるのだろうか…?


「ほら、全部飲め!」


 頭を激しく、上下左右に振られ、飲み込みたくない歩を大量に胃へと入れてしまう。


「ゴホッ!おえっ!げぇっ!」


 苦しい。確かに死んだ方がマシかもしれない。痛みから解放されるのならば…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る