第13手 プロ棋士がワープする世界

 翌日の16時55分。


 約束の時間まであと5分だ。俺ら7人は、例の神社に集まった。


「いよいよだな! 『る将』の奴らぶっ殺してやろうぜ!」


 腕まくりをして、気合いを入れているかおり


かおり…無茶はやめてくれよ? 相手はどんな手を使って来るか分からないんだからな?」


「うるせぇよ、あたしが負けるとでも思ってんのか!?」


 俺はせっかく心配してやったのに。


「まあまあ、篠崎しのざきさん! 羽野はのくんは、篠崎さんのこと、好きだから心配しているんだよ!」


「そうだよ! だから怒っちゃダメ!」


 ランとリンは、香の周りをぴょんぴょんと跳ねながら言う。


「おい、てめぇらぶっ殺すぞ!? たれぞーが、あたしのこと好きでも、あたしは嫌いだ!」


 それ以上、香を刺激しないでくれ。後で気不味くなるじゃないか。


「皆さん…お話しはここまでみたいですわよ?」


 ほし六段が、神社の鳥居の方を指差しながら言う。


 空間が歪んでいる!


 そして、そこから黒いモヤのような物が出てくると、段々それは人の形へとなっていった。


 昨日のフードの男だ。


「お…お前、昨日はよくもやってくれたな!」


 金太郎が半分怯えた感じで、四五六しごむ名人の背後から叫ぶ。いくら名人だらかって、歳下を盾にするなよ。


「どうやら7人を揃えたみたいだな。今からお前達を決闘の場へ連れて行く。」


 ここで戦うわけじゃないのか! 俺は心のどこかでピンチになったら、強い棋士が助けに来てくれるかも、と一瞬考えたりしてしまっていた。


「決闘の場? どこでやるんだ?」


 俺が尋ねる。


「黙って俺の後からついて来い。」


 男は、そう言うと、何もない鳥居の間に手を伸ばした。すると、その先から、黒い煙が渦巻いていく。


 そして現れたのは、まるで、ブラックホールのような物であった。闇属性を応用すれば、こんなこともできるのか。


 フードの男は、そのブラックホールの中へとスッと入って行った。


「え、これワナじゃないよね?」


「私もワナだったら怖いよ!」


 二人で手を繋いで怯える天音あまね姉妹。


「大丈夫だと思うよ。あそこから殺気は感じられないからね。」


 四五六しごむ名人が言う。


「名人が言うんだから、安心して参りましょう。」


 星六段は、ランとリンの肩を後ろから優しくポンポンと叩く。


「よし! 行くぞ、おめぇら!」


 かおりが先頭を切って、ブラックホールへと向かって行った。俺も負けじと、香の後を小走りで追う。


 さらに、金太郎が後に続き、天音あまね姉妹、星六段、最後尾を四五六しごむ名人が続く。


 度胸のある香は、躊躇いもなく、ブラックホールに飛び込んだ。


 俺は少し怖かったが、かおりに遅れを取るわけにはいかない。意を決して飛び込んだ。


 そして俺は、ブラックホール内は、謎の空間が広がっているのかと考えていたのだが、そうではなかった。


 入った瞬間、全く違う外の景色が目の前に映し出された。


 周りには深く生い茂る木々。


 どうやら山の中みたいだ。


 俺らの前方10メートル辺りの所には、大自然の中、立派な将棋盤も置かれていた。


 俺が辺りの様子を見回している内に、他のメンバーもブラックホールを通って、この場所へとやって来た。そして、最後に四五六しごむ名人が来た瞬間、ブラックホールは閉ざされた。


 もう戻れないってことらしい。


「ようこそ、決戦の場へ。」


 先程のフードの男が再び黒いモヤから姿を現した。


 さらに、それと同時に、同じフードを被った人間が6人。顔も皆、闇属性のモヤで覆われている。あと、体格差も皆ある。もしかして、女性や子どももいるのだろうか?


「ここは、富士の樹海だ。」


 富士の樹海だと? 生憎、周りは高い木々で覆われている為、富士山を見ることはできないが、これまた随分遠くまで連れて来られたもんだ。


 そして、あのフードの男。


 やはり、かなりの闇属性の使い手だな。


「これからルールを説明する。」


 その瞬間、俺ら一人一人の周りを闇の炎が囲んだ。一瞬、やられたかと思った。


 だけど、よく見れば、フード集団も同様に闇の炎で囲まれていた。


「対局者以外は、その場から動けないという仕組みだ。そして、今から行う対局だが、勝ち抜き戦形式を採用する。初戦で勝った方は、続けて2回戦目も戦うことができる。それで更に勝てれば3回戦も続けて戦える。つまり、うまく行けば一人で全員を倒すことが可能となる。また、この対局では、当然殺しても勝ちだ。」


 殺すものありか。しかし、それは最初から覚悟していたことだ。


「殺されたくなかったら投了すればいい。しかし、チームが全員負けた瞬間、投了して生き残った者にも死んでもらう。」


 俺は、昔から思っていることなんだが、何故、『殺る将』の皆さんは、プロ棋士を殺したい筈なのに、わざわざ将棋の対局を行う必要があるのだろうか。


 不意打ちで投げ飛車でもすればいいのに。


 あんな奴らでもどこか、将棋への執着、あるいは、『殺る将』の流儀みたいな物があるのだろうか?


 まあとにかく、俺らプロ棋士がアイツら全員に勝てばいいんだろ? 一人も死なずに終わらせてやるぜ。


「早速だが、プロ棋士諸君、初戦を戦う者を決めてくれ。」


 さあ、俺らは誰から戦おうか。


 何も打ち合わせをしていなかったのだが…


「わたくしが行きますわ。」


 星六段が名乗りをあげた。


「このルールでしたら、弱い者から順に戦うのが適切だと思われます。そうだとしますと、羽野はの五段に以前負けたわたくしが一番弱いと思われますわ。」


 判断基準そこですか。


 ————————————

《プロ棋士データベース、その3》


 中山なかやま 金太郎きんたろう五段(21歳)


 19歳プロデビュー

 豊田とよた さき門下

 浮き飛車党

 属性:無

 得意戦法:空中角換わり


 レーティング:11700

(棋力11500、オーラ力200)

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