第18手 覚醒すると震える世界
「俺の正体が気になるようだな?」
このまま隠すつもりなのかと思っていたが、闇フード男の顔を覆っている黒いモヤが段々と晴れてきた。
「別に隠しておく必要も無かったんだがな…」
フードも外し、露わになる正体。俺は胸が締め付けられた。やはり、お前だったか、クソ野郎め。
「何やってんだ!この、バカ兄貴が!」
なのに、ある日、突然と姿を眩ませやがった。
「お前が訳のわからんことしている間に、俺らの親は死んだんだぞ!?じいちゃんもな!」
俺ら兄弟は、祖父に将棋を学んだ。まだ小さかった俺らは、訳も分からないまま始めたが、その日を境に、俺らの眼中には将棋だけしか映らなかった。毎日、何十局とも対戦するが、負けるのはいつも俺。オーラを先に扱えるようになったのも兄貴だった。そして、段々と兄貴は、俺との将棋に興味を示さなくなった。
「バカ兄貴!お前、自分が何をしているのか分かっているのか!?」
俺は怒りで頭が一杯になった。今すぐブン殴ってやりたい。バカ兄貴のせいで、こんな悲惨な状況になっているんだ。
「ゴプッ…!」
大木に張り付けにされていたランが、再び吐血した。自らの腹部を押し潰している将棋盤に、ドス黒い血がドロッとかかる。
「ラン!嫌だ…!死なないで!しっかりして!」
リンが泣き叫ぶ。
「リ…リン…ごめ…ん…ね…私…」
辛うじて意識があったランだが、言葉の途中で、突然ガクッと体の力が抜けたようだった。
「あ、やっと死んだかな♩」
「次は、誰が私と将棋してくれるのかな♩」
無力だ、俺はいつも。頭の中が真っ白になる。もう終わりなのか。あのバカ兄貴達の前に為すすべは無いのか。悔しいが諦めかけていた。
だがその時、突然、俺の右側から突風が吹いて来た。
「え…♩」
「馬鹿な。自力で闇の炎を消しただと?」
兄貴も驚いている様子だ…何があった?俺は虚ろな目で、突風が吹き荒れる方を見る。
「ラン…コイツは殺すから…」
先程の突風を巻き起こした犯人は、リンだった。その体の周りを激しい炎が纏っている。とんでもないオーラだ。体から溢れてしまっているオーラが突風となって流れているようだ。それに、よく見ると手が震えている。
「
「今の彼女のオーラは、僕を上回るよ…!」
リンが、名人よりを上回っただと?
リンは、ゆっくりと歩き始めた。響乃に向かって。
「あれ♩このお姉ちゃんにも…私の能力が効かない♩」
そして、リンは地面に落ちた飛車を、震える手でなんとか拾いあげた。
「死んでしまえ…お前なんか…」
リンは、飛車に炎を纏わせる。
「え♩お姉ちゃん、そんなの当たったら死んじゃうよ♩」
「よくも…ランを…!」
リンは、目から大粒の涙を零し、飛車を思い切り投げつけた。あんなの避けることは不可能だ。飛車に纏った強力な炎は、一瞬にして響乃を丸焦げにした。その死体は、恐怖からか天を仰ぎ、まるで魂が抜かれたような表情をしていた。
「ラン…仇は…とったよ…」
リンは、気を失ってしまったようで、その場でバタンと倒れてしまった。
「おい、リン!大丈夫か!?」
「恐らく、天音 リン五段の肉体でさえ、『震え』には耐えられなかったんだ!」
「バカ兄貴!こんな状況でもまだ続けるのか!?お前の仲間もさっきから死んでるんだぞ!」
「たれぞー、だからお前は弱いんだ。ここにいる者全員、最初から死ぬ覚悟だった。死に恐怖する者は、棋士としての資格などない。」
くそ、まだ犠牲者が増えてしまうのかよ…!
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