第65手 蘇生魔法みたいなのすら存在する世界

 久しぶりの光だ。


 ブラックホールを抜けた先は、東京スカイツリーver.3の頂上。


 、生きてここに戻ってきた。


「し…篠崎さん…!」


 ラン、リンが動かなくなったかおりに逸早く気がついて、俺らの元へと駆けて来た。遠くにいる師匠は、その場でただ呆然としている。


 誰もこんなことを想像していなかっただろう。


「は…羽野五段…!」


 きなこ五段もラン、リンより少し遅れて俺らの元へと慌てて走って来た。


「あ…足…!すぐに治します…!」


 きなこ五段は、俺の足の治療をすぐに始めてくれた。


 凄まじい勢いで、ニョキニョキと足が生えて来ているのが分かる。


「あ…ありがとう、きなこ五段。なぁ、聖属性ってのは…死んだ人間には効果ないのか…?」


 僅かな可能性に望みを託す。その言葉を聞いたきなこ五段は唇を噛んで黙り込んだ。


 やはり無理なのか。諦めた俺だったが、意外にも信じられない言葉が返って来た。


 きなこ五段は、オロオロとしながら、やっと言葉を発した。


「い…生き返らせることは…か…可能です!」


 え?


「だ…だから今は、安心して治療に専念してください…!」


 もう足の指の感覚まで戻ってきた。


「羽野五段…とりあえず足は生えて来ました。あとは自然回復に、ま、任せましょう!それでは篠崎六段を生き返らせますので…!」


 治療を終えたきなこ五段は、オーラが空っぽに近いのか、フラフラしながら香の元へと寄って行った。


「きなこ…!お前、生き返らせるってまさか…!?アレはにするんだろ!?」


 男の娘棋士、よもぎ五段がきなこ五段の両肩を掴んで歩みを止めさせる。


「ご、ごめんね。よもぎ。私、羽野五段のことが…だ、大好きだから…!許してね!それに…大好きな人の力になれるなら…怖くないよ!」


「だけど、きなこ…!いくら何でも…!」


 俺は言葉が出なかった。


「あの…!その…!私、前から羽野くんのことが好きで…鶏王けいおう戦での初対局も、緊張し過ぎて上手く喋れなかったんです…!今も緊張しているけど…!ご、ごめんなさい…!」


 マジなのか…。好意を持たれて決して嫌な訳ではない。だけど、きなこ五段は今、命に代えて香を生き返らせようとしているのだ。こんなこと、本当はあってはならないことだ。


 だけど俺は…香とまた話したいんだ…。香が生き返る…。


 しかし…俺には正しい答えが分からない。


 俺の目から悔し涙が溢れ出す。


 色々な感情が湧き出て来て止まらない。


「は、羽野五段…!お、女の子って意外に素直じゃないんです…!羽野くんが篠崎さんを必要としているように、案外、篠崎さんも羽野くんを必要としている筈です…!わ、私は…大好きな人の為に死ねて本当に幸せです…!だから、少しも罪悪感なんて感じなくていいです!ありがとうございましたっ!」


 きなこ五段も話の途中から大粒の涙を溢れさせた。同門下のよもぎ五段も唇を噛み締めて泣いている。


 そして、きなこ五段の胸から、光輝く球体になったオーラが飛び出した。聖属性の塊だ。


 それが勢いよく香の遺体へと飛び込んだ。


 きなこ五段は、俺の顔を最期にチラッと見ると、静かにその場へと倒れた。

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