第66手 珍しくラブコメっぽい世界

 あの壮絶な戦いから1週間が過ぎた。


 未だに東京都心は暗いままである。AIの全てが駄目になってしまった。恐らく、この被害は日本全土へと飛び火してしまうであろう。いや、既に日本はもう手遅れの域に達しているかもしれない。


 そんな不安がいつも過ぎるが、俺は、まだ完全に回復していないかおりの介護をするべく、毎日家へと通っている。


 正直、香との会話は以前に比べて減った。最低限の会話だけしか行われない。


 香も、きなこ五段の命と引き換えに今生きていることに違和感を覚えているようだ。


「香…。明日の夜の分までは食料買ってきたから…。」


「お…おう。」


 ベッドに横になっている香は、俺に背を向けて応える。


「最近、物価が上昇しているから、あんまり食べ物が手に入らないんだ。少ないけど我慢してくれ。」


 カスみたいに小さなパンと、ペットボトルの水を数本袋から出し、テーブルへと並べる。


 香を元気にせねばならないと思いつつも、俺も何を喋っていいか分からないでいた。あの日、きなこ五段が死ぬ間際、女の子って意外に素直じゃないって言ってたけど、アレは何を伝えたかったんだろうか。


「おい…たれぞー…!」


 ボーっと考えていると、香の方から俺に声をかけて来た。


「…なんだよ?」


 俺は、少し香の様子がおかしいことに気がついた。異常にそわそわしているように思える。次の言葉が飛び出してくるまでに随分と間があった。


「お前どうせ…やること…ないんだろ?嫌ならいいけどさ…。き、今日泊まって帰らないか?」


「は…?と、泊まる!?」


 俺は、思いもしなかった発言に唖然とした。


「だから、嫌ならいいって言っただろうが!」


 香は、俺に決して顔を見せず、壁に向かって怒鳴っている。


「嫌じゃないけどよ…あの…その…。」


 俺は何て返事したらいいのか分からない…!


「ハッキリしろや、このクソ童貞が!ぶっ殺すぞ!」


「は、はい!泊まらせていただきます…!」


 ちょっとその後無言の時間が続いてしまったが、俺らにとってその日は忘れられない一日となった。


 ずっと苦しかった時間は、やっと終わってくれた。


 ——————————————


 ☆第4局 邪龍召喚篇 完結


 次回より


 新章『恩返し篇』


 始動!

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