第5局 恩返し篇

第67手 グンマー族すら反乱を起こす世界

 日本は荒れに荒れ続けている。日常だと思っていた光景は、日を跨ぐに連れてどこか遠くへとかけ離れていった。空を飛ぶ車も無いし、それどころか電気も絶たれ、飲み水さえも尽きようとしている。


 風の噂によると、この大混乱に乗じて、グンマー族が群馬王国の国境付近で反乱を起こし、日本の自衛隊と大衝突しているとも聞いた。


 俺らプロ棋士も、さすがに将棋どころではないと微かに思い始めた。


 それに間も無くやって来ると言う将棋星人。果たして彼らはどのような存在として俺らの前に姿を現わすのだろうか…?


 しかし、完全に希望を失っているわけではない。何とか将棋をこの先も続けて行きたいと思う棋士達は試行錯誤を続けていた。


 俺もその内の一人だ。


「んー、書いてあることが難解過ぎて…俺には分からねぇ。かおり、お前なら分かるだろ?」


「うるせぇ!今考えているから黙ってろ!」


 俺らは、これまで一度も入ったことがなかった、将棋会館の一室に作られた万田まんだ研究室を訪れた。部屋の雰囲気は白一色だが、禍々しい雰囲気が漂っていた。なんせ、ネズミのホルマリ漬けなど、どう考えても将棋とは関係のない物ばかりが置いてあるからだ。


「困りましたわね。確かに駒や将棋盤の設計図を見る限りでは、現代のテクノロジーを大きく上回っている感じが致しますわ。なんとなくですが…。」


 相変わらずのセーラー服姿の星六段は、いくつかの資料を手に取り、頭を抱えている。


「ねぇ!将棋星人が来たらさ、また駒の作り方とか色々教えてもらおうよ!ちゃんと話し合いしたら分かってくれないかな?」


 男の娘棋士のよもぎ五段が言う。


「そうだな…。将棋星人が味方だったら話は早いけど。でも、一番良いのは俺らの力だけで復興するのが確実じゃないか?」


 そう、俺としては、人間の手だけで何とか解決したかった。それに、そもそも将棋星人が俺らの味方をするとも何となくだが思えない。


 俺らが頭を悩ませていた時、不意に研究室の扉が静かに開いた。


「君達…ここで何をしておる?」


 現れたのは、日本将棋連盟のトップ…。


 ジャック会長だった。

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