第63手 虚しい世界

かおり!おい、返事してくれ…!」


 ぐったりと血の海に沈む香に問いかける。頼むから…死なないでくれ!


「た…たれ…ぞー?そこに…いる…の…か…?目が…見え…ねぇ…。」


 か細い声だが、


「香ッ!大丈夫だ…!俺がバカ兄貴ぶっ倒すから!みんなの所へ戻ろうな!きなこ五段もいるし、すぐに怪我も治るから…!」


 俺は必死に香を励ます。


 もう解っているんだ。


 俺も、恐らく香自身も…。


 この傷じゃ、香は助からない。まだ意識すらあるのが不思議なくらいだ。


 それに、両足を失った今の俺に、万が一も勝ち目はないし、先程の戦いでオーラを使い切った師匠が、いつもみたいに助けに来てくれることもない。


 俺ら二人は完全に詰んでいる。


「た…あれぞー…なんか…寒い…ぐふっ!」


 口から血が溢れる。喋るなと言いたいが、何故か、それを言えない俺がいた。


「あ…あたしの…せいで…こうなっちまったんだ…すまねぇ。」


 止めろ、お前が謝るなんて。らしくないことするんじゃない!


「お前…あたしが…死んでも…平然としてたら…ぶ…ぶっ殺す…か…」


 声がどんどん小さくなる。


「おい、香!死ぬな!いつもみたいに元気出せ!怒鳴ってくれよ…!」


 俺の目からは涙が溢れる。


「な…泣いている…の…か…?バカヤロウ…が…。」


 香の両目からも涙がツーッと流れた。


「あ…たし…は…名人に…なれない…みたいだか…らよ…。お前が…代わりに…なって…くれ…や…。それから…あたしは…案外よ…たれぞー…のこと…」


 え?


 途中で言葉が途絶えた。


 おい、言葉の続きはどうしたんだ!?


 おい…!


「うわぁぁぁあああ!!」


 いくら待とうが、再び香が喋ることは無かった。

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