第36手 駒は投げやすさが重要な世界

猫王にゃんおうは、私が倒す!羽野はのくんと篠崎しのざきさんは、二人で狂死きょうし九段を!」


 豊田先生が、俺らに飛車や歩といった、投げやすく、攻撃に適した駒が大量に入った袋を手渡してきた。


 …これで武器は揃った。


「あと、犬王けんおう鶏王けいおうの援護を頼む…!」


 豊田先生が、遠くにいる犬王に向かって叫ぶ。しかし…


「ワン?豊田九段…誰に指図しているんだぁ?鶏王の援護だと…?鶏王は、犬王と響きが似てるから大嫌いだ…!それに俺は…こう見えて猫派なんだよっ!」


 大きな図体で、垂れ耳である犬王は、近くにいた陰陽師おんみょうじ八段の頭を拳一発で吹き飛ばしてしまった。


「きゃー!!」


 その側にいたカリン四段が悲鳴をあげる。


「おい、犬王…!キサマまで猫王の仲間だったのか…!?」


 万田まんだ八段と駒を交えている鶏王が叫んだ。


「ワンワン!お前らに勝ち目は無いぞ…?お前らを皆殺しにした後は、ここにいない他の棋士も全員あの世に送ってやる!」


 不味いぞ…!敵は、猫王、犬王、狂死九段、万田八段…。敵の方がレーティングで見れば圧倒的に上だ。


「おい…たれぞー!お前、犬王をぶっ殺せ!じゃないと、カリン四段が殺される…!」


「はっ!?かおり…じゃあ、一人で狂死きょうしと戦うつもりなのか!?」


 狂死は…明らかに将棋界トップ3に入る強さを誇るのだ。俺らのロリコン師匠よりも更に強力な闇属性を扱う。


「あ?あたしは絶対死なねーよ!お前に心配されたくはないね!」


 香は、飛車を構えて臨戦状態になる。


「香…死んだら俺がぶっ殺すからな…!」


 俺は、渋々ではあったが、この場を香に任せた。アイツは、『将来の女性名人』と言われている程の天才少女なんだ。


 俺なんかが心配なんかしてはダメだ。


「たれぞー!お前も、死んだらあたしがぶっ殺すからな…!」


 こうして、将棋界最悪の大乱闘が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る