第25手 力技が怖い世界

 俺は一回戦、藍染あいぞめ五段になんとか勝つことができた。続いては二回戦だが、俺は下手したらここで殺されるかもしれない。


 なぜなら…


羽野はのくん…手加減はしないからね?」


 対戦相手はまさかの天音あまね リン五段。この、小さく可愛い姿からは想像できないが、その真の肉体は、筋肉の塊である。どんな力技を繰り出して来るのか想像しただけで恐ろしい。


 先手は、リンだ。


 飛車先のを力強く前へ叩きつける。余りの威力に部屋の窓がガタガタと揺れた。


 さらに、盤へと駒を叩きつけた衝撃で、不思議なことに、リンの歩が全部裏返って、と金になってしまった。


 ダチョウ倶楽部じゃないんだぞ。


 敵陣には1枚の歩と48枚のと金。絶望しかない。俺は、取り敢えず飛車をCへと浮かせた。落ち着け。まだ、勝てる。まだ、2手目だ。


 続いてリンの3手目。


 飛車先の歩を再び掴む。さあ、かかって来い。


「はっ!!」


 オーラを込めて、俺の飛車にぶつけて来た。爆散する俺の飛車。これはやばい。頼みの綱である俺の飛車が。これだと一発逆転が狙えない。


 ここで俺は長考に入る。


 リン相手にまともに戦っていては勝ち目がないんだ。俺は、リンのオーラ切れをなんとかして待つしかない。力では負けても、オーラ量では勝っている。だから、それまでに負けないように戦うんだ。


 ぎょくを深く囲って、持久戦にしよう!


 俺は、珍しく玉の囲いを優先させる。しかし…


「隙あり!!」


「あ…!」


 リンの蹴りが俺の手にヒットした。それにより、つまんでいた玉が宙を舞い、なんと、敵陣の数マス手前に着地してしまった。囲うどころか、自ら敵陣に突っ込んで行ってしまうと言う大悪手だ。


 対局者の動きから目を離してしまったばっかりに。


 そして、ここからリンの猛攻撃が始まった。俺は、ひたすら玉が捕まらないように後ろへ後退するだけだ。たまに光属性を纏わせて、2マス後ろへ下がったりした。


 こうして、20手近くかかりはしたが、再び生きて我が陣地へと戻ってきた。


 リンは時折、歩で直接俺を狙って来た。本当に手加減はしていないようだった。あんなの直撃したら死んでしまう。


 俺は、玉と自らの命を守りながら、玉の周りに大量の駒を配置した。





 現在898手目。



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