第26手 急にシリアスな展開になる世界

「はぁ…はぁ…」


 さすがにリンの息が上がってきた。オーラが尽きて来たようで、駒に属性を纏わすことが困難になって来た。


 こうなってしまえば数百年前のプロ棋士同然だ。オーラ無しでは今の時代、勝ち目がない。無属性なのにプロとなった、金太郎だけが特別である。


 俺は、チャンスだと思い、ここで反撃に転じる。俺は、オーラが沢山あると言えど、さすがにかなり消費してしまっていた。早く勝負を決めなければ、俺のオーラも尽きてしまう。


 光属性の特性である二手指しを使い、俺は少しずつリンの玉を追い詰めた。


 オーラ切れのリンにとっては、最早俺に対抗する術はない。


「くそっ…私が…こんな所で…!」


 リンは、すぐには諦めず、時折、俺本体を蹴りで狙って来た。だが、それさえ当たらなければ恐れることはない。


 こうして、1023手目…


「ま…参りました…」


 リンが遂に投了した。俺の執念の粘りが功を期した。その上、なんて言ったって久しぶりに盤上で決着がついたのだ。俺にとって、この勝利が大きな自信へと繋がった。


「羽野くんがこんなに粘るなんて…私、驚いたよ…」


「いや、でも523手目に腕じゃなくて、顔に飛車をぶつける筋もあったと思うけど、それをやられたら難しい展開になってたよ。」


「うーん…やっぱり、友達には手加減してしまうってことだね…!」


 リンはニコッと笑い、俺らは二人揃って対局室を後にした。


 廊下の窓から見える空には、やけにカラスが多く飛んでいる。


 うん?カラス?


 なんか凄いカラスが群れているぞ?


 俺は、何となく、窓から下を見た。ここは、将棋会館の2階にあたる。


「えっ…?」


 俺の体は一瞬にして膠着こうちゃくしてしまった。


 だ。


 生首が落ちてある。


 しかも、は…


 見れば見るほど確信に変わってしまう。


 あれは…


 俺の親友。


 中山 金太郎五段の…


 頭部だ。

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