第27手 これは第三次世界大戦後の世界

 俺とリンは、顔色を変え、急いで建物の外へと飛び出した。さっさと退け、カラス供め!


 俺らの迫り来る足音で、人間の存在に気づいたカラスの群れは一斉に散っていった。


「おい…なんだよ…これ…!」


 俺は、強い悲しみや恐怖などの負の感情により、膝から地面へと崩れた。殺されているのは、本当に金太郎だった…。


「は…羽野くん…!他の人呼んで来る…!」


 リンが走って去って行く。


 俺は今、どうしていいのかわからない。一体誰が?まさか、『殺る将』か…?俺のバカ兄貴か…?確かに金太郎は無属性だから一番狙われやすいのは事実だ。


 だけど、これはあんまりだろ。


 殺す意味なんてあるのかよ?


 金太郎は、何が起こったのか分からないような表情をしている。不意打ちでやられてしまったのか。


 感情の整理ができなくなり、俺の目からは涙が流れて来た。


「金太郎っ…!」


 もう名前を呼んでも返事はない。


 俺がしてやれることは、必ずや犯人を見つけ出すことだけだ。


 日本は、第三次世界大戦で大打撃を受けて以来、国の治安は悪くなる一方だ。治安は悪い癖に、なんとか世界の中で生き残ろうと、AIの進化だけは優先して進めようとする。誰もが金を獲る為に、AIだけに夢中になるのが今の世の中だ。


 そして現在では、人が一人殺されようが国は動かないレベルまで陥った。今の日本の現状じゃ、人間一人が殺されるぐらい日常茶飯事だ。よっぽど猟奇的な事件でない限りは注目されることはない。


 だがそれは、捉えようによっては、敵討ちが可能になることも意味している。


「羽野くん…!」


 リンが戻ってきた。


 リンの後ろを数人の棋士が走ってついて来た。その中にいた。金太郎の師匠である豊田先生が。


「金太郎…!」


 一番見せたくない人物だったが、もうこれは仕方がない事だ。いつか、この辛い現実と直面しなければならない。


「豊田さん…私、会長にも伝えて来ますよ。」


井乃藤いのふじ九段…頼む…!」


 そんな中…


「にゃ?大騒ぎしてどうしたんだ?なんかあったか?」


 急に、俺らの背後から盛大にジャンプして誰かが現れた。


「にゃにゃん…死んどるな。生首だ!まあコイツ、無属性なんだから殺されても仕方ないか!」


 こいつは…初代猫王・レオ。


 細身の体で、顔は整っている。金髪で、鼻ピアス。ホストのような棋士だ。


 なんだ、この猫王が醸し出す嫌な雰囲気は…


「おい、お前…この状況が分かっているのか!」


 俺は今、流石に沸点が低い。


「にゃん?タイトルホルダーに向かってその口の聞き方はなんだ?」


「おい…止めろ二人とも…今は黙れ…」


 豊田先生を、激しいオーラが纏う。


 プロ棋士史上最強の風属性。豊田先生を中心に突風が巻き起こる。


「にゃ、怖いね!まあまあ他の皆さんも通り魔殺人にはお気をつけて!」


 猫王は、ピョンと人間離れしたジャンプを披露してこの場を去って行った。


 もうこの場には、静寂以外残らなかった。

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