第28手 人が死ねど、国は荒れど、将棋は一応指す世界

 金太郎の死後、全棋士参加の緊急会議が開かれた。犯人も分からず、しかも将棋会館敷地内での事件であることから、不安の声がいくつも挙がった為だ。


「一旦、猫王にゃんおう戦は中断しないか?」


 最初に発言したのは、金太郎の師匠である豊田先生だった。しかし、その言葉を聞いたジャック会長の眉毛がピクリと上に動いた。


「それはならぬ。タイトル戦となれば、多少なりとも将棋に注目は集まる!それを無駄にすると言うのは将棋界の寿命を縮めることを意味する!それに、中山 金太郎は、以前も『殺る将』にやられたではないか?その程度の棋士には、早々消えてもらう方が好都合だ。」


 ジャック会長は、本当にぶん殴りたくなるような発言を平気でする。


「まさかこの中に、他にも猫王戦の続行に反対する腰抜けがおるのではなかろうの?」


 ジャック会長は、多くの棋士が不安がっているのを悟りながらも、このような挑発的発言を繰り出しているようだ。


「会長。私も犯人が見つかるまでは、対局は控えた方がいいかと。」


 A級棋士、井乃藤いのふじ うなぎ九段の発言。彼は、『井乃藤システム』と呼ばれる目から鱗が落ちるような戦法を、研究の末に生み出したトップ棋士だ。


「井乃藤君までそう言うのかね。我々プロ棋士は常に最強でないと駄目なのだ!」


 このクソジジィ、いつかブン殴る。


「ねぇ、会長。ボクは、犯人はこの中にいると思うんだけど?違うかな?」


 ロリコン師匠も発言をする。


「なぜそう思うのかね、毒島ぶすじま君?」


 いつも思うがこの二人、特に相性が悪いぞ…。


「ボクの大局観…がそう言っているよ。」


 師匠は静かに、目を閉じた。師匠は何かを感じ取っているのだろうか?


「やれやれ、相変わらず情けない連中じゃ。せっかく皆には集まってもらったんだが話にならぬ。猫王戦は、必ずや明日以降も続ける。」


 結局、クソジジィの独断に終わってしまったじゃないか。コイツは、会議の意味が分かっていないのか?


「にゃにゃ!僕も猫王戦は、本当は中止が良かったんだけどな!タイトル…奪われたくもないし…!まあいいや!これ以上犠牲者が出ないことを祈って続行しましょうか!」


「おい!猫王!お前、ふざけたこと言ってんじゃねぇよ!」


 遂に俺も、皆の前で怒りが爆発してしまった。全員の視線が俺に集まる。


 俺は、金太郎の死が何もなかったかのようにされるのは許せなかった。


「にゃ?羽野五段…この前もそうだけど、僕に向かってそんな態度取っていいと思ってるのか?悔しかったら…上まで登って来なよ?。」


 そうだ。俺がトーナメントを勝ち進んで猫王の奴をぶっ倒せばいいんだ。


 それに…俺は、この猫王が怪しくて仕方がなかった。

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