第29手 トップ棋士が腹黒い世界

 結局、猫王にゃんおう戦は、何事もなかったかのように翌日から再び行われた。


 俺の3回戦は不戦勝。


 その相手と言うのは、奇しくにも金太郎だったのだ。公式戦初対決だったはずなのに…非常に悔やまれる。


 俺は4回戦開始まで時間があるので、将棋会館の周りを一人でぶらついていた。ジッとしているのが落ち着かなかった。


 俺の身体は、自然と『殺る将』となったバカ兄貴と、初めて再会した神社の方へ向かって行く。


 うん…?


 神社の方から声が聞こえる…


猫王にゃんおう…お前からの依頼は達成したぞ?」


「ああ、わかってるって!頼りにしてるよ。」


 マジか…


 神社に猫王がいやがった!俺は、慌てて身を屈めて、息すら止める。


 それに一緒にいるアイツは…


 狂死きょうし 惡乱わるらん前名人…!


「にゃー。毒島ぶすじまの奴は、プロ棋士内に犯人がいると勘付いたみたいだけど、厄介だなー。」


「ああ。アイツは昔から特に鼻が効く…まあ将棋会館の敷地内で殺した俺らのミスだな。これからは、より慎重に殺していかねばならぬ。」


 俺はとんどもないことを聞いてしまったようだ。心臓の音がアイツらに聞こえてないかが気になるぐらい、俺は色々な感情が昂ぶっていた。


 また誰かを殺す気でいるのかよ?


「にゃ。取り敢えず次に殺すのは、トーナメントを勝ち上がって来た奴だ!僕はこのタイトルを誰にも譲る気はない!このタイトル戦で、ある程度棋士を殺せれば、後々色んな意味で楽になる。」


「まあ、A級で言えば、勝ち上がって来るとすると…会長、名人、毒島ぶすじま、豊田、井乃藤いのふじぐらいだろ?Aについているんだ。あの厄介な5人さえ、勝たせなければお前はタイトルを奪還されずに済む。」


 は?猫王の奴、狂死きょうし以外のトップ棋士も味方にしてるのか!?


 確かに…トップ棋士となれば、皆、クセが強い奴らばっかりだが。


 しかし、これはマズイぞ。猫王の座を奪おうとする奴が次、本当にまた殺されかねない!


 もうすぐ俺の4回戦が始まってしまう…


 対局後にはなるが、必ず師匠に伝えなければ。

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